室温で透明な強磁性体を開発、磁場で透明度制御:微細複合構造を持つナノグラニュラー磁性体
電磁材料研究所の小林伸聖主席研究員らによる研究グループは、透明強磁性体の開発に成功した。室温環境で大きな光透過率と強磁性を示す。しかも、新材料は磁場の大きさで透明度をコントロールできる磁気光学効果を示すことも分かった。
自動車や航空機のフロントガラスなどに応用可能
電磁材料研究所の小林伸聖主席研究員らによる研究グループは2016年9月、透明強磁性体の開発に成功したと発表した。室温環境で大きな光透過率と強磁性を実現したのは世界でも初めて、と主張する。開発した材料は、磁場の大きさで透明度をコントロールできる磁気光学効果を示すことも明らかにした。
今回の研究は、電磁材料研究所の電磁気材料グループリーダーを務める小林伸聖主席研究員とそのスタッフが実験を行い、実験結果の解析を小林氏と東北大学学際科学フロンティア研究所の増本博教授が行った。また、理論的解析は東北大学金属材料研究所の高橋三郎助教と日本原子力研究開発機構先端基礎研究センターの前川禎通センター長らが担当した。
開発したナノグラニュラー材料は、粒径が数ナノメートルの鉄(Fe)−コバルト(Co)合金微粒子(グラニュール)が、フッ化アルミニウム(AlF3)の媒質(マトリックス)中に分散した構造となっている。ナノグラニュラー薄膜は、一般的なスパッタ法を用いて作製しており、再現性や耐熱性にも優れ実用性の高い材料だという。
最大級の磁化を有する強磁性金属のFe−Co合金と、安定で優れた光透過性を有する誘電体のAlF3を、ナノスケールで混在させたことにより、磁化の大きさが18kA/m(0.025T)で、可視光領域を含む400〜2000nmの波長領域において、透明な強磁性体を作製することに成功した。この材料の光透過率を磁界中で計測したところ、常温で約0.04%(最新の測定結果では約0.1%)という透過率の変化を示すことが分かった。この特性の発現機構は、量子効果(トンネル磁気誘電効果)に基づく新しい磁気−光学効果であることが、理論的解析によって明らかとなった
左は660℃に加熱したガラス基板(コーニング製イーグル2000)上に作製したFe9Co5Al19F67ナノグラニュラー膜(1μm)の写真。右はFe13Co10Al22F55ナノグラニュラー膜の光透過率の変化(波長:1500nm)を示したグラフ。丸印は実験値、実線は理論値 出典:電磁材料研究所他
研究グループは、今回の成果をベースに特性の改善を行い、透明磁気デバイスの開発に取り組む予定だ。透明電極材料と組み合わせれば、透明な電気磁気光学デバイスを実現することができる。将来は、自動車や航空機のフロントガラスに応用して、速度計や燃料計、地図情報などを直接表示させることも可能になるとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 高速・大容量の秘匿光通信システムを実現
東北大学の中沢正隆教授らによる研究グループは、量子雑音ストリーム暗号と量子鍵配送の技術を組み合わせることにより、極めて安全で高速かつ大容量の秘匿光通信システムを実現した。 - 超薄膜物質の磁性を簡便に測定、東北大が開発
東北大学のZhiyong Qiu助教と齊藤英治教授らの研究チームは、スピン流を用いて超薄膜物質の磁性を観測することに成功した。超薄膜試料の磁気特性を比較的簡便に測定できる手法の開発によって、スピントロニクス分野の進展に弾みをつける。 - 東北大、ビスマス層状酸化物の超伝導化に成功
東北大学の福村知昭教授らの研究グループは2016年8月、これまで超伝導を示さないと考えられていたビスマス層状酸化物の超伝導化に成功した。 - 単結晶プラチナ薄膜のスピン伝導現象を解明
東北大学の柳淀春博士後期課程学生らの研究グループは、単結晶プラチナ薄膜のスピン伝導機構を解明することに成功した。スピン流の自在な電界制御や電界駆動を可能にすることで、低消費電力スピントロニクスの実現に近づく。 - 防虫剤の「ナフタレン」から大容量負電極が誕生
東北大学は2016年5月14日、全固体リチウムイオン電池用負電極材料として、黒鉛電極の2倍以上の電気容量を実現する新材料を開発したと発表した。 - 室温で生体の磁場を検出、高感度磁気センサー
東北大学発ベンチャーのラディックスは、「第26回 ファインテック ジャパン」のアルバックブースで、TMR(トンネル磁気抵抗)素子を用いた高感度磁気センサーのデモ展示を行った。室温で生体磁場検出などが可能となる。