シリコンバレー〜イノベーションを生む気質(1):イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(8)(2/2 ページ)
ハイテク産業の中心地がボストンからシリコンバレーに移り、今なお成長し続ける理由には、「シリコンバレーの気質」が大いに関係している。ここから複数回にわたり、シリコンバレーの気質を掘り下げていこう。
シリコンバレーの「オープン性」
シリコンバレーにおいてハイテク産業が大きく花開き、しかもその繁栄を今でも謳歌し続けていられる理由の1つは、「シリコンバレーの気質」にあるといえよう。ここでは、その気質を大きく2つに分けて説明したい。まずは、これまで少し触れてきた「オープン性」。そしてもう1つは「失敗に対する寛容さ」である。
オープン性について、ちょっと面白いエピソードがあるので紹介したい。
ビジネスの場(シンポジウムでも異業種交流会でも何でもいい)で初対面の人と会った時、皆さんが最初にすることは何だろうか。大抵の場合は、名刺交換だろう。名刺を見て、相手の会社での地位、ひいては社会的な地位などを確認するのが一般的だ。名刺を見ることで、自分との相対的な立場を無意識のうちに定義し、そうした一連の“儀式”を終え、やっと安心して話し出す……。と、こんな具合かと思う。
これと正反対なのがシリコンバレーだ。シリコンバレーでは、初対面でもとにかくオープンに話す。どういう仕事をしているのか、これまで何をやってきたのか、何に興味があるのか、これから何をやりたいのか――。そういったことをすぐに互いに話し出す。そして話が盛り上がると「来週、もう1回ランチしましょうよ。その話をもうちょっと詳しく聞きたいんです」と、こういう流れになるのだ。そして、別れ際になって初めて、「ところで、あなたはどこの会社に勤めているんですか。連絡先を知りたいので、よかったら名刺をください」と、名刺を交換するのである。互いの肩書はまったく関係のない世界なのだ。
日本だと、どうしても「この相手ならここまで話していいか」「今のはちょっと話し過ぎてしまった」など、いろいろと考えがちだが、シリコンバレーは特にその辺りが極めてオープンなのだ。こうして、さまざまなアイデアが交換され、行き交うのである。
そしてそのアイデアは、奇抜(クレイジー)であればあるほど面白がられる。日本のように「こんな考えを話したら白い目で見られるのではないか」という心配など無用だ。むしろ「十分、クレイジーなアイデアかどうか」ということが重要になる。そうしたアイデアを出せる人物は、「既成概念にとらわれない、自由な発想で新しいアイデアを生み出すことができる人物」である可能性が高いからだ。
よく「Out of the Box Thinking」と呼ばれるのだが、文字通り、“箱の中に閉じ込められた考え方”、つまり常識や既成概念にとらわれない考え方ができるということは、シリコンバレーでは高く評価される。
“箱から飛び出た奇抜なアイデア”をどう料理して、新しいビジネスにつなげていくか――。それがシリコンバレーの人間にとっては最も重要なのだ。そして、そこからスタートアップが生まれていく。
こうした「オープン性」を大事にする文化が、シリコンバレーには根付いているのである。
(次回につづく)
⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー
Profile
石井正純(いしい まさずみ)
ハイテク分野での新規事業育成を目標とした、コンサルティング会社AZCA, Inc.(米国カリフォルニア州メンローパーク)社長。
米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍。
AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
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