飛び込みにまつわる「6つのなぜ」に新たな仮説が続々?:世界を「数字」で回してみよう(36) 人身事故(6/10 ページ)
今回は、「なぜ7月に飛び込みが多いのか」「なぜ火曜日に飛び込みが減るのか」など、私が仮説立案できなかった6つの疑問に対して、読者の皆さまが寄せてくださった仮説の中から、私のハートにヒットしたものを紹介したいと思います。後半では、小田急線の人身事故に巻き込まれた人々の実際のTwitterを分析してみました。
(疑問5)なぜ大規模事故(ダイヤ復旧まで110分以上)の発生件数は曜日に関係なく安定するのか
これは、「(疑問2)なぜ、火曜日に「飛び込み」が減るのか?」に対する、さらなる疑問となっています。なぜなら、大規模事故は、火曜日も週末も減らないからです。
アンケートに応じていただいた皆さんの仮説はこちらですが、これに関しては、基本的に疑問4に対する内容と同じになっているようなので、江端セレクションは省略します。
(疑問6)なぜ、9時から14時までの事故は大規模化しにくいのか?
これについては、既に前回、私が「その時間帯はダイヤが過密ではないので、影響が波及しにくい」という仮説を立てています。
それと、このケースでは、初めて、「全ての『飛び込み』事故」と「大規模化した『飛び込み』事故」との間に、相関関係(F値が0.05以下)が認められました。これは、どの時間帯であっても大規模化した『飛び込み』事故」は一定の比率で発生してしまう、ということを示しています。
これは、ある意味、当然とも言えます。月単位、曜日単位より、さらに細かい時間単位にすれば、特徴量が分散されてしまうからです。
これまでの分析で、"夜→朝→昼"の順で、飛び込み自殺による巻き添えの確率は小さくなることは分かっているのですが、大規模化な事故に巻き込まれる比率については、夜、朝、昼、いずれであっても、どのみち変わらないという、身もフタもない結果になってしまっています。
それでも、昼間の「飛び込み」が少ないという事実は変わりません。この件に関する、アンケートに応じていただいた皆さんの仮説はこちらです。
基本的に疑問4、疑問5と同じ内容になっていると思われるのですが、江端セレクションとしては、この他、新しい2つの仮説をご紹介したいと思います。
"ブレーキ"仮説については、次回以降に、「『飛び込み自殺』の技術」という観点で検証してみたいと考えています。
一方、"ダイヤ改ざん"仮説は、実際に今でも行われています。
例えば、事故発生後に、小田急電鉄のロマンスカーは全面運休となります。仕方のないこととは思うのですが、『平日に休みを取り、幼い子どもを連れて箱根に遊びに行こうとしている家族なんぞは、さぞ憤慨しているんじゃないかなー』と、いつも思っています。
さて、ここまで、江端の6つの疑問に対する、読者の皆さんの仮説を紹介しました。
が、この仮説によって何かを変えられるかというと、ほとんど何もできることはなく、はっきり言って、
―― 特に意味はない(アニメSteins;Gate 第23話)
です。
これまでの連載で、鉄道への「飛び込み」に対する決め手がないことを明らかにしてきました。「ホームドアの敷設は今後も遅延する」「うつ病などを根絶する手段がない」「事故処理時間を短縮する方法がない」「轢断され散乱した遺体写真を公開する社会的合意が得られない」などです。
そして、今回の仮説立案は、あくまで、鉄道への「飛び込み」という現象を理解する1つのアプローチにすぎないのです。
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