450人が去った会社――改革の本番はむしろこれから:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(7)(4/4 ページ)
湘南エレクトロニクスでは、ついに希望退職の日を迎えた。会社を去ったのは最終的に450人。だが、「社内改革」という意味ではむしろこれからの方が本番だった。会社再建に向けてどう青写真を描くべきか……。悩む須藤に、追い打ちをかけるように一報が入る――。
再建の青写真とグランドデザイン
変革に向けて昔も今も「選択と集中」という言葉がある。
強みがある、得意分野に経営資源を集中することは理にかなっているが、昨今の製造業の企業立て直しを見るたびに、この言葉の元に自社の良いところまで捨ててしまっている企業も少なくない。
変革を数学的に考えると、「何かを加え、要らないものを捨てること」である(図1参照)。
そして、捨ててはいけない伝承すべきことが、長年培った企業遺伝子であり良いDNAだ。捨てるものは、古い価値観(例:未来は会社が与えてくれる)・仕事のやり方・固定概念などである。新しい価値観(未来は自分で作る)・仕事のやり方にシフトしていかなければ企業も社員も成長や発展はない。
今回、湘エレは「捨ててはいけない企業遺伝子」を育ててきた社員を、「選択と集中」という大義名分のために、希望退職という手段を用いて捨ててしまったのではないだろうか。
さらに大事なのは、継続するために仕組みを作ることである。この仕組みを作らなければ、企業資産にはならず、また同じことを繰り返す羽目になる。
企業を変革する時には、このような仕組み作り、つまり「グランドデザイン」をきちんとやらないと危険である。「残す」「捨てる」の境界を決めるためにも、基準を明確にしなければならない。Tコンサルの杉谷が須藤に言った“緻密な戦略とシナリオ”をはじめ、“再建の青写真”を描くことが、まさにこの企業変革のグランドデザインを行うことに他ならない。
次回はいよいよ変革プロジェクトが始動する。
⇒「“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日」バックナンバー
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を開発設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画業務や、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『”AI”はどこへ行った?』『勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ』などのコラムを連載。書籍に、『上流モデリングによる業務改善手法入門(技術評論社)』、コラム記事をまとめた『いまどきエンジニアの育て方(C&R研究所)』がある。
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