450人が去った会社――改革の本番はむしろこれから:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(7)(3/4 ページ)
湘南エレクトロニクスでは、ついに希望退職の日を迎えた。会社を去ったのは最終的に450人。だが、「社内改革」という意味ではむしろこれからの方が本番だった。会社再建に向けてどう青写真を描くべきか……。悩む須藤に、追い打ちをかけるように一報が入る――。
社長に再び直談判をする
須藤は、東京コンサルティング(以下、Tコンサル)の杉谷(第5回参照)と定期的に情報共有を続けていた。メールで社内の様子を伝え、週に一度は杉谷のオフィスに出向いて、相談に乗ってもらっている。須藤たちにあからさまに敵意を示す上司や社員たちが早期退職せずに多くが残っている社内を見ると、「一筋縄ではいかないな」とは思っている。勢いだけではなく、“緻密な戦略とシナリオ”が欠かせないと杉谷に言われたことが、より現実味を帯びてきたと須藤は身に染みて感じていた。
さて、須藤にとってTコンサルは、どこか居心地の良い時間と空間を感じていた。初めてTコンサルを訪れた時には不在だったが、ここ何度かの訪問では、女性コンサルの若菜未清(28)も相談の場に同席するようになった。時折鋭い指摘を入れてくる杉谷と、親身になってやんわりと耳を傾けてくれる若菜という対称的な2人ではあるが、須藤は社内の同期3人衆とは異なる、社外に力強い味方がいることで、元気をもらっていると感じている。会社を変えていくために、この人たちの経験や知見は絶対にプラスに働くという確信を持ち始めるが、これまで一切に費用の話もせずに相談に乗ってくれているTコンサルに対して、「当社の変革を手伝ってもらいたいが、いくら掛かるのか」と須藤は言い出せずにいた。何しろ、コンサルティング会社の費用について相場観など、さっぱり見当がつかない。
翌日の早朝、須藤は本社にいた。あらかじめ、須藤が日比野社長にメールを入れ、秘書的なことを行う上条総務課長にもアポを入れていたのだ。社長退任の可能性についても直接、話を聞きたい。さらに、企画部の佐伯課長が紹介してくれたTコンサルへの支援依頼について費用捻出の可能性について聞きたかった。
日比野は、退任の可能性については高いとのことだった。須藤に「好きなことを続けられるっていいよな」「社員がその気にならない会社に未来はない」と言った社長自身が誰よりも湘エレを愛しているはずだ。そして、先陣を切って会社というみこしを担いでいるのも社長である。それを知っている須藤にとって、日比野の口から出た「退任するかもしれない」という言葉は、極めて重いものだった。
社長に直談判した改革活動については、日比野は「会社がこのような状況だから、目立った費用の使い方はできない。しかし、再建のために必要なことなら進めよう」と言ってくれた。Tコンサルの手続きについては人事の三井課長に、須藤たちの活動については中村技術部長へ、それぞれ日比野から直接、依頼の連絡を入れてくれることになった。
須藤は「湘エレ再建の暁には、日比野さんとうまい酒を飲みたかったのに、その時に日比野さんはいないのかもしれないな……」と考えてしまうが、社長の後押しがあったからこそ、やっと、須藤たちも動き出せると感じていた。
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