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沈黙する人工知能 〜なぜAIは米大統領選の予測に使われなかったのかOver the AI ――AIの向こう側に(5)(1/9 ページ)

世界中が固唾をのんで、その行方を見守った、2016年11月8日の米国大統領選挙。私は、大統領選の予測こそ、人工知能(AI)を使い倒し、その性能をアピールする絶好の機会だとみていたのですが、果たしてAIを手掛けるメーカーや研究所は沈黙を決め込んだままでした。なぜか――。クリントンvsトランプの大統領選の投票を1兆回、シミュレーションしてみた結果、その答えが見えてきました。

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今、ちまたをにぎわせているAI(人工知能)。しかしAIは、特に新しい話題ではなく、何十年も前から隆盛と衰退を繰り返してきたテーマなのです。にもかかわらず、その実態は曖昧なまま……。本連載では、AIの栄枯盛衰を見てきた著者が、AIについてたっぷりと検証していきます。果たして”AIの彼方(かなた)”には、中堅主任研究員が夢見るような”知能”があるのでしょうか――。⇒連載バックナンバー


世界が注目した米国大統領選挙

 今回は、前回の「ベイズ推定」を発展させて「ベイジアンネットワーク」の解説をさせていただく予定でしたが、2016年11月8日(火曜日、現地時間)に行われた、合衆国大統領選挙 ―― 正直、私はショックを受けた ―― の結果を受けて、急きょ、内容を変更することにしました。

 今回は、さまざまな文献をあさり、検索やシミュレーションを行い、私が理解した範囲で、この選挙の仕組みについてお話したいと思います。

 そして、なぜ、"人工知能技術"は、合衆国大統領選挙に太刀打ちできないのか(当選者を予測できないのか)について、私なりの結論を得ましたので、番外編としてご報告致します。


 前回のコラムで、私は、ネイト・シルバーさんの著書「『シグナル・アンド・ノイズ」に出てくる、パンティと浮気の相関関係の事例で、ベイズ推論の説明をしました。

 ネイト・シルバーさんは、8年前の2008年合衆国大統領選挙で合衆国50州のうち49州(95%)の、4年前の2012年には、全州(100%)の勝者を正確に予測しました。

 週末エンジニア兼データアナリストである私にとっても、これが、どれほどものすごいことであるかは理解できます。

 私がこれまで読んできた本の著者、例えば、イアン・エアーズさん(「その数学が戦略を決める」)、マイケル・ルイスさん(「マネーボール」)などは、数字や統計が本当に役に立つことを、これ以上ないくらいに分かりやすい具体的な成功事例で示し、ビッグデータや数理解析という考え方の、「光」の部分を担当したと思っています。

 一方、私は、といえば「『ビッグデータ』からは、『ビッグデータに入っているモノ』以上のモノは絶対に出てこない」という明々白々の事実を、全く理解しようとしない人たち*)に苦しめられ続けた「闇」の部分を担当した(させられた)という自負があります。

*)「ビッグデータ」という言葉を使う人は、せめて「標準偏差」くらいは理解しておいてください。

 それはさておき。

 神のごとき的中率を誇ってきた、ネイト・シルバーさんは、2016年の合衆国大統領選挙*)(以下、大統領選という)において、投票日の10日前の時点でヒラリー・クリントンさんが勝利する確率を80〜85%と予想していました。

*)民主党指名のヒラリー・クリントンさん、共和党指名のドナルド・トランプさん、その他、多くの政党から立候補があった大統領選挙

 しかし、今回の、合衆国大統領選挙の結果については、ネイト・シルバーさんだけではなく、世界中の多くの人の予想を覆す結果になりました*)

*)事実上のヒラリー・クリントンさんとドナルド・トランプさんの対決となり、多くの世論調査を覆しドナルド・トランプさんが勝利した。


まさかの結末に世界が驚いた

 そして、私はといえば、この大統領選の話題に言及してこなかったことを、今、心の底からホッとしています ―― 『ああ、いらんこと言わんといて、本当によかった』と。

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