米の水分量を1秒で計測する技術、電磁波を活用:箱詰めされてても大丈夫
産業技術総合研究所は2016年12月13日、米などの農産物の水分量を非破壊で容易に計測する技術を開発したと発表した。生産現場における品質管理や選別が容易になることが期待される。
生産現場の品質管理や選別を容易に
産業技術総合研究所(産総研)の昆盛太郎氏と堀部雅弘氏は2016年12月13日、米などの農産物の水分量を非破壊で容易に計測する技術を開発したと発表した。
農産物の水分量は品質を決める重要な1つの要素であり、米の場合だと水分量が低いと割れやすくなり、高いとカビの原因となる。現行の水分量測定には、大量の農産物の中からサンプルを抽出して粉砕したものの電気抵抗を測定する方法や、サンプルを乾燥させて乾燥前後の重量の変化から評価する方法などが用いられている。しかし、いずれも破壊検査で試料の変化を伴うため、測定に時間と手間がかかるという。
また、光を用いた非破壊検査も存在するが、対象物の大きさや形状、色により測定できない場合がある。従来の電磁波を用いた非破壊での測定手法でも、対象物の大きさや形状の情報が必要などの課題があり、容易に測定することができなかった。
昆氏らは、これまで産総研で培った電磁波計測技術を活用して、生産現場での品質検査を効率化する水分量測定技術を開発した。物体に含まれる水分量が減少すると、物体は電磁波を通しやすくなる。マイクロストリップ線路に電磁波を伝搬(でんぱん)させると、表面付近に電磁波が発生する。その状態で線路に測定対象物を近づけると、伝搬する電磁波の振幅と位相が変化。この変化をベクトルネットワークアナライザーで測定する。
水分量が9.9%と12.8%と異なる米を紙製の袋に封入し、実際の環境を模擬して測定した結果、同じ水分量の米では測定結果が同じ直線上に分布した。水分量が異なると、傾きが異なる直線状に分布することから、測定物の水分量を決定できるという。
開発した手法では、電磁波を照射してからデータを得るまでの時間が1秒以下となっているため、ベルトコンベアなどで対象物が輸送されている状態でも、リアルタイムで測定可能。昆氏らは、リリース上で「包装や箱詰めされた状態でも計測できるため、生産現場における品質管理や選別が容易になることが期待できる」とコメントしている。
今後は、さまざまな農産物について同手法が適用可能なことを実証するとともに、精度に関する検証を行うなど、実用化に向けた取り組みを進めていく。さらに、農産物の糖度などの測定や食品などの混入異物検査への応用も検討しているとした。
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