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教育・ホビーから産業用途へ、ラズパイ5年目の進化創業者ですら驚いた(2/3 ページ)

“ラズパイ”の名で親しまれている超小型コンピュータ「Raspberry Pi」。2012年の発売当初は、“子どもたちにプログラミングを学んでもらうための楽しいおもちゃ”という位置付けだったが、今では販売台数の約半数が産業用途で使われているという。ラズパイの開発者であるEben Upton(エベン・アプトン)氏に話を聞いた。

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産業用途での増加、Upton氏も驚いた

 このように本体だけでなく周辺機器も充実させる中、Upton氏ですら驚いていることがある。現在、顧客の半数以上が、産業用途でRaspberry Piを使用しているというのだ。前述した通り、Raspberry Piは教育向けとして開発されたものである。Upton氏は「もともとは、“優れたオモチャ”というイメージで開発したので、産業用途での使用が増えていることには、とても驚いている」と語る。

 こうした背景を踏まえ、Raspberry Pi Foundationは、産業用組み込み機器として「Compute Module」を2014年に発表。2017年には、その後継機種となる「Compute Module 3」が登場する。NEC Display Solutions Europeは2016年10月、Raspberry Pi Foundationとの提携を発表し、Compute Module 3を搭載したNECのデジタルサイネージ向けディスプレイが、2017年に登場することを明らかにした。Upton氏によれば、Compute Module 3は、前世代品に比べてメモリ容量が2倍、CPUのピーク性能が12倍になっているという。CPUコアは、Compute Moduleが「ARM 11」のシングルコア、Compute Module 3ではCortex-A53のクアッドコア(Raspberry Pi 3と同じチップ)となっている。


2017年に発売予定の「Compute Module 3」(クリックで拡大) 出典:Raspberry Pi Foundation

 Upton氏によれば、Raspberry Piは、産業用途としては、デジタルサイネージやエアコン、郵便サービス向けのファクトリーオートメーションなどで使われているという。「実は、代理店から販売された後は、どこに使われているのか、はっきりとは分かっていない。ただ、例えば2016年は約400万台出荷されていて、そのうち半数となる約200万台が産業用途で使われているのは分かっている」(同氏)

 同氏は、Raspberry Piの潜在市場は産業機器にあると強調する。一方で、もともとの狙いであった教育用途にも力を入れていく。だが、産業向けと教育向けでは、Raspberry Piに対する要件がだいぶ異なるのではないだろうか。例えば産業向けには高性能、教育向けでは、そこそこの性能で十分だから安価なものを、といった具合だ。これについてUpton氏は、「個人的には、教育向けにこそ高性能が必要だと考えている。実は、性能に対する要求が最も厳しい顧客というのは子どもたちなのだ。実際、旧モデルとなるRaspberry Pi Model A+とB+は、ほとんどが産業用途で使われている。われわれの理解では、Raspberry Piについては、産業向けとしてはコストが最も重視されている」と述べる。

 Upton氏は、「もちろん、今までは1種類のRaspberry Piで教育向けと産業向けの両方に対応してきたが、今後もそれがうまくいくかどうかは分からない」と説明しつつ、「ただし、1種類を維持するというのは、量産すればするほどコストが下がるというメリットがある。そのため、Raspberry Piの進化の方向を教育用、産業用と明確に分離するのではなく、あくまでも1種類のRaspberry Piを主流としていく。そして、例えば産業用途には、Compute Module 3のような製品を補助的に開発する、といった方法で、産業機器と民生機器の両方をサポートしていく考えだ」と続けた。

なぜ産業向けにラズパイを選ぶのか

 Upton氏は、産業用途でRaspberry Piが選ばれる理由について、「3つある」と話す。「1つ目は、高性能で、その性能が安定しているということ。Raspberry Piはこれまでに1100万台が販売されている。Raspberry Piのような製品は他にもあるが、これらのほとんどは大量には製造されていない。年間で約1万台、多くても10万台といったところだろう。そのように小規模生産だと、性能を安定させるのは難しくなる」(同氏)

 2つ目はコスト効率だ。「Raspberry Pi Model A+は20米ドル、最も高いRaspberry Pi 3でも、わずか35米ドルだ。特に産業向けとして考えると極めて安価な価格帯だろう。さらに、非常に短いリードタイムで購入できる点も強みになる。例えば今日1万台受注しても、明日には提供できる」(Upton氏)

 3つ目としてUpton氏はエコシステムを挙げた。「専用ケース1つ取っても、例えば産業向けにはDINレールに取り付けられるケースなど、さまざまなものを用意できる。商業用のエコシステムが整っているので、そこで知識が集約される。量産の規模がある程度なければ、こうしたエコシステムを形成するのは難しい」(同氏)

 Upton氏は「開発当初は、Raspberry Piが産業用途で使われるとは思ってもいなかった。だが、だからこそ、性能や品質が安定するよう適切な投資を行ってきた」と付け加えた。

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