教育・ホビーから産業用途へ、ラズパイ5年目の進化:創業者ですら驚いた(3/3 ページ)
“ラズパイ”の名で親しまれている超小型コンピュータ「Raspberry Pi」。2012年の発売当初は、“子どもたちにプログラミングを学んでもらうための楽しいおもちゃ”という位置付けだったが、今では販売台数の約半数が産業用途で使われているという。ラズパイの開発者であるEben Upton(エベン・アプトン)氏に話を聞いた。
ラズパイの進化の方向性
Raspberry Piは、どのような方向に進化していくのか。Upton氏は「CPUの性能には満足しているので、今後2〜3年間はソフトウェアの強化に注力していく」と語った。具体的には、ソフトウェアの安定性を継続的に改善していくことや、デフォルトで入っているソフトウェア機能をさらに増やすことなどを挙げた。
“Made in Japan”のラズパイ
Raspberry Piは、英国ウェールズにあるソニーのEMS(電子機器製造サービス)を利用して製造されている。2016年10月には、愛知県にあるソニーの稲沢工場でも製造が始まった。つまり、“Made in Japanのラズパイ”が登場しているのである。製造されているのはRaspberry Pi 3 Model Bで、アールエスコンポーネンツが同年11月10日から販売を開始している。
EE Times JapanがUpton氏にインタビューを行った2016年12月13日の時点で、稲沢工場では2万台が製造され、既に全て出荷されていた。Upton氏は、稲沢工場での生産台数について、「最初は年間100万台、いずれは500万台」と述べた。「500万は、それほど非現実的な数字ではない。ウェールズの工場では既にキャパシティーがいっぱいなので、今後は稲沢工場への依存度が高くなっていくことが予想されるからだ」(同氏)
現在、日本では毎月1万台、つまり年間で約12万台販売されているRaspberry Piだが、Upton氏は、これを140万〜150万台に引き上げることが目標だという。「英国では年間70万〜80万台を販売している。日本と英国の人口の違いを考えると、140万〜150万台は夢のような数字ではない」(同氏)
販売数を増やす戦略として、Webサイトなどに掲載しているコンテンツの日本語化をさらに進めていくことや、小売店で販売することを挙げた。Upton氏は、「日本では、ショップで購入できるという点が重要視されていることが分かった。販路を拡大するにはオンラインだけでなく、店でも購入できるようにする必要がある」と述べる。日本では、Raspberry Piは“ホビイストが電子工作を楽しむためのもの”という印象が強いが、これについてUpton氏は、「ホビイストの中には、実際にエンジニアとして働く人も少なからずいるはずだ。そうしたエンジニアが、産業用途で使える組み込みコンピュータの候補の1つとしてRaspberry Piを見てくれるようになるのではないか」と語り、今や産業用途もRaspberry Piの重要なターゲット市場であることを強調した。
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