助触媒の自己再生機能を持つ光触媒シート:酸素発生機能が1100時間超に
人工光合成化学プロセス技術研究組合などは、助触媒の自己再生機能を有する光触媒シートを開発した。酸素発生機能の寿命を従来の約20時間から1100時間以上に向上させることに成功したという。
酸素発生機能の寿命を従来の50倍以上に
人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)と東京大学、東京理科大学は2016年12月、助触媒の自己再生機能を有する光触媒シートを開発したと発表した。酸素発生機能の寿命を従来の約20時間から1100時間以上に向上することに成功したという。
光触媒シートは、太陽光を吸収する光触媒の表面に化学反応を促進する助触媒を固定化して、動作させることが一般的である。助触媒には、水素発生用に白金やロジウムなどの貴金属、酸素発生用に鉄やニッケル、コバルトなどの酸化物が用いられる。これらの助触媒は光触媒上に固定化されるが、水分解反応を長時間行う過程で助触媒が水中に脱落、溶解してしまい、光触媒の長寿命化を妨げる大きな要因となっていた。
ARPChemなどは、世界最高水準の酸素発生機能を有する光触媒であるバナジン酸ビスマスの粉末をガラス基板上に塗布し、導電層としてニッケルとスズを蒸着。その後、粒子転写法プロセス*)によって酸素発生機能を有する光触媒シートを開発した。
*)粒子転写法プロセス:光触媒電極シート作製方法の一種。基板上に光触媒粒子を堆積させ、スパッタ法や蒸着法を用いてコンタクト層を光触媒粒子の上に形成し、オーミックコンタクトを形成する。その上に導体層を形成して基板を剥離し、余分な粒子を超音波などで除去することで光電極光触媒シートを得る。
得られた光触媒シートは、バナジン酸ビスマスとスズとニッケルの導電層が強固に接合されている。また、本光触媒シートを水中に入れた場合、導電層からNi2+イオンが微量に水中に溶出し、水中に微量溶解している鉄イオン(Fe2+)とともに混合酸化物として光触媒表面に固定化される。このニッケル鉄混合酸化物(NiFeOx)が、光触媒の助触媒として機能することを見いだしたという。
従来法で作製したバナジン酸ビスマス光触媒シートと、今回発表した手法で作製した光触媒シートを水中(ホウ酸緩衝液中)に浸漬し、光照射を行った場合の酸素発生に基づく光電流を測定した結果が図1となる。従来法で作製した光触媒シートでは、酸素発生機能を最大とさせる動作条件の場合、光照射開始から20時間後くらいから助触媒の脱落、溶解に起因する活性低下が始まる(図1a)。これに対して、今回発表した手法で作成した光触媒シートでは、1100時間経過しても活性低下がなかった(図1b)。
同手法によって作製された光触媒電極表面では、NiFeOxが光触媒表面から脱落、溶解しても、導電層からNi22+イオンが微量に水中に溶出すことで助触媒が自己再生する。これにより、1100時間という長寿命を達成することができたとしている。
今回の研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」による成果の1つである。ARPChemなどは、光触媒の長寿命化のための手法開発を今後も進めるとともに、同プロジェクトの最終目標である2021年度末の太陽エネルギー変換効率10%達成を目指していくとした。
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