これまでの伝統破り、自動車が主役に:「CES 2017」の注目株を探る(3/3 ページ)
2017年1月5〜8日に米国のネバダ州ラスベガスで「CES 2017」が開催される。今回の注目株の筆頭は、AI(人工知能)、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)、自動車とされていて、ここ数年間のCESで盛り上がっていたIoT(モノのインターネット)のブームは少し落ち着くようだ。
VRとARについては、賛否両論
VR(仮想現実)とAR(拡張現実)はいずれも、人間に、より強い没入感を与えることを狙った技術である。特にVRはゲーム愛好者にとって既におなじみの技術だが、Curran氏は「CES 2017では、かつてないほどの規模でAR、VR関連の製品やサービスが披露されるだろう」と予測する。
一部の開発者らは、没入感に他の感覚を加えることで、視覚を超える体験を実現しようとしている。例えば、Feelrealという企業は、クラウドファンディングの「Kickstarter」のキャンペーンを通じて、VRマスクの開発資金を募っている。Curran氏は、このマスクを用いると、ユーザーは嗅覚や触覚なども感じられるようになると説明した。
かつての「Smell-o-Vision(スメロビジョン)*)」に近い感じかもしれない。
*)映画館において、においを自由に制御できる技術。スイスで嗅覚を研究していたHans Laubeによって開発され、1960年に公開された映画『Scent of Mystery』で採用された。
市場調査やコンサルティングを手掛ける米Arlen CommunicationsのプレジデントであるGary Arlen氏は、VRの成功に期待している。なぜなら、VRはAIと同様、産業や医療などの分野で既に受け入れられているからだ。Arlen氏はEE Timesに対し「VRはゲーム以外でも大きな可能性がある」と述べた。
Arlen氏は、VRが大量市場で本格的に普及し始めるには、うまく拡張できるコンテンツやアプリの登場を待たなければいけないと認める一方で、VRに絶大な可能性を見いだしている。同氏は、「ビデオゲームから発展していくのは明らかだ。また、昨今のハイブリッド製品(スマートフォンをディスプレイ部分に装着して使うタイプのVRヘッドギア)も、VR普及のきっかけとなるだろう」と述べた。
Arlen氏は「大々的な宣伝に刺激された多くの一般消費者が、VRデバイスを実際に体験したがっている。CESでVRが注目されるであろう理由は、そこにある」と分析した。
一方、DTCのMoore氏は懐疑的だ。「VRはまだ本格的に普及する土台が整っていない」というシンプルな見解を示した。CESではたくさんの報道があるだろうが、「VRが大量市場に浸透するには、乗り越えなくてはならない重大な課題がいくつかある」という。
最大の課題は、消費者の手に届く価格帯の無線ソリューションがないことだ。「Samsung Gear VR」はスマートフォンのコストも加味する必要があるため、消費者が気軽に買えるソリューションとはいえない。他の製品でもほとんどの場合、VRヘッドセットはPCに接続して使われる。ユーザーは“普及価格帯”を外れた市場で大枚をはたいてVR機器を手に入れることを迫られるだろう。
もう1つの課題はVRヘッドセットだ。Moore氏は「VRヘッドセットは十分に実用的とはいえない。重い上に発熱することもある。さらに、TVのCMなどとは違い、VRヘッドセットを装着している姿がスマートに見えることもほとんどない」と説明した。その上でMoore氏は「とはいえ、VRとARが消費者に明るい未来をもたらす可能性は大きい。このことから、今後は上述した欠点が全て改善されるかどうかに注目していきたい」と付け加えた。
Arlen氏は、その他の重要な問題は、他の業界や新たな分野がVRとARをどのように取り込んでいくのかという点だと指摘した。「(VerizonやAT&T、Comcastといった)テレコム企業や、将来的に5G(第5世代移動通信)を提供する予定のオペレーターは、VRサービスの実装において主要な役割を担っている」(同氏)
Arlen氏は、「そのため、多くの規制機関や政府機関の間で、VRのサービスに関して衝突が発生しそうだ」と予測する。例えば、使用する帯域や、プライバシー、セキュリティの問題などについてなどである。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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