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Googleが育った小さな建物は、“シリコンバレーの縮図”へと発展したイノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(10)(2/3 ページ)

人と資金と情報が豊富に集まるシリコンバレーでは、50〜60年という長い時間をかけて、イノベーションを生み出すエコシステムが形成されていった。このエコシステムによって、シリコンバレーからは大成功を収めたスタートアップが幾つも誕生している。シリコンバレーには、このエコシステムを“建物の中で再現”している場所がある。

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PayPalやGoogleを育んだ「小さな建物」

 さて、イノベーション・エコシステムが成長するに従って、もう2つ重要なプレイヤーが加わった。それが「インキュベーター(Incubator)」と「アクセラレーター(Accelerator)」だ。それぞれの正確な立ち位置は後できちんと説明するとして、彼らの役割は前者が「ビジネスや研究を行う場所をベンチャー企業に提供すること」、後者が「彼らのイノベーションを加速すること」である(文字通りといえば、文字通りであるが……)。

 そうした“場所”の一例が、サニーベールにある「Plug & Play Tech Center(以下、PnP)だ。ベンチャー企業や起業家に格安で入居させ、ベンチャーキャピタリストや各分野の専門家などをメンター、アドバイザーとして迎え、セミナーやピッチコンテストを毎週のように開催する。“入居者”たちは、投資家をはじめさまざまな人に、自分たちのアイデアや製品を披露することができる。投資家にとっては、“金の成る木”の予備軍を効率よく探し出すいい機会になる。

 ここまで聞くと、ピンとくる読者もいるのではないだろうか。PnPは、さながら“シリコンバレーの縮図”なのである。シリコンバレーのイノベーション・エコシステムがうまく回るということを理解した人々が、そのエコシステムを建物の中で意図的に再現しているのだ。PnPのロゴに「Silicon Valley in a Box(箱の中のシリコンバレー)」とあるが、まさにその通りである。


PnPの写真。ロゴの下の方に「Silicon Valley in a Box」と書かれているのが見える(クリックで拡大)

 PnPのコンセプトは、イラン人のSaeed Amidi氏が所有していたパロアルトにある小さなオフィスビルから始まった。Amidi氏の父親はペルシャ絨毯のビジネスをやっており、それでもうけたお金で買ったスタンフォード大学に程近い通り沿い(165 University Avenue)の小さなビルを、スタートアップ企業に貸すことを始めた。1980年ごろのことである。


165 University Avenueの様子。「小さなオフィスビル」はここにあった。写真は、改装された後の建物(クリックで拡大)

 そこに1981年に入居してきたのがLogitechだ。その後PayPalが入居し、さらにその後Googleが入居した。Logitech、PayPal、Googleと、大成功を重ねたスタートアップがこの小さなオフィスビルから誕生したため、「このビルに入居せれば成功する」という神話が生まれたほどだ。貸しビルのオーナーとしてこういったことを経験したAmidi氏はスタートアップのインキュベーションをよりシステマチックに進めるため、2006年にシリコンバレーでも真ん中に位置するサニーベールでPlug and Plug Tech Centerを創設したわけである。

 PnPは、投資家たちにとってだけでなく、入居者たち自身にとっても非常によい環境である。明日には世界に名だたる起業になっているかもしれないスタートアップが、小さなエリアに集まっているのである。「イヌも歩けば棒に当たる」というが、ここPnPでは「入居者が廊下を歩けば棒に当たる」とでも言えばいいだろうか。入居者同士がアイデアを話し合い、化学反応のようにスパークして新結合、つまりイノベーションが起きる可能性だってある。

 付け加えるならば、PnPでは、技術的なイノベーションではなく、どちらかというとビジネス面でのイノベーションが生まれやすい。入居者たちの専門分野や知識はさまざまなので、思いもよらないビジネスモデルや生まれ、人脈ができる。これも、PnPが持つ大きな価値だといえるだろう。

 PnPはインキュベーターの老舗といえるが、その後、今では日本でもよく知られているY Combinatorや500 Startupsなど、多くのインキュベーター、アクセラレーターが生まれている。

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