Googleが育った小さな建物は、“シリコンバレーの縮図”へと発展した:イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(10)(3/3 ページ)
人と資金と情報が豊富に集まるシリコンバレーでは、50〜60年という長い時間をかけて、イノベーションを生み出すエコシステムが形成されていった。このエコシステムによって、シリコンバレーからは大成功を収めたスタートアップが幾つも誕生している。シリコンバレーには、このエコシステムを“建物の中で再現”している場所がある。
インキュベーターとアクセラレーター
さて、インキュベーターとアクセラレーターについて話をしておこう。両者の意味合いはちょっと異なる。インキュベーターは、基本的にはPnPのような場所を提供する。場合によってはファンドを持っていて、自分自身も入居者に投資する。ただ、一般的にインキュベーターは技術についてではなく、もっぱらビジネス面で議論する。
一方のアクセラレーターは、医療など、自分の専門分野を持っている。技術開発を加速させ、商用化に近いところまで持っていってあげるのが彼らの役割だ。研究開発がうまくいかず、課題を持ち込んでくるような入居者がいれば、共同で開発するケースなどもある。アイデアを形にするための具体的な方法を持っているのがアクセラレーターである。
この他、インキュベーターとアクセラレーターの要素を併せ持った、ハイブリッドなプレイヤーも存在する。
「アカデミック」「起業家」「VC」という3つの要素に、「専門家」という潤滑油が加わり、50〜60年かけて醸成されてきたシリコンバレーのイノベーション・エコシステム。ここに、インキュベーターとアクセラレーターがさらに加わり、過去2回の連載で紹介したような「オープン性」「寛容さ」という気質と相まって、上向きのスパイラルで成長を続けているのである。
学友が設立したLogitech
マウスやキーボードやウエブカムで良く知られているLogitech(ロジテック、日本ではLogicool(ロジクール))であるが、実はその3人の創立者のうちの2人ダニエル・ボレルとピエルイジ・ザパコスタは、1976年から1978年にかけてスタンフォード大学のコンピュータサイエンス学科で筆者の同級生であった。
そのこともあり、筆者はロジテック創立の最初から同社にアドバイザーとして関与し、マッキンゼーから独立してAZCA, Inc.を創立した1985年から2003年まで同社の社外取締役を務めた。また、筆者は2004年からロジテック創立者3人目のジャコモ・マリーニとピエルイジ・ザパコスタが2000年に始めたベンチャーキャピタルに参画し、現在に至っている。
⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー
Profile
石井正純(いしい まさずみ)
ハイテク分野での新規事業育成を目標とした、コンサルティング会社AZCA, Inc.(米国カリフォルニア州メンローパーク)社長。
米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍。
AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
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