研究開発コミュニティーが置かれた危うい状況:研究開発のダークサイド(1)(1/2 ページ)
研究開発コミュニティーは「常に」危機に曝されてきた。研究開発に関わるエンジニアであれば、「研究不正」「偽論文誌・偽学会」「疑似科学」といった、研究開発コミュニティーを取り巻くダークサイドを知っておくにこしたことはない。本連載では、こうしたダークサイドを紹介するとともに、その背景にあるものを検討していく。
研究開発コミュニティーは「常に」危機に曝されてきた
「研究開発コミュニティー(研究開発者と研究開発に関係する集団)が危機に曝されている」。マスコミが使いそうなこの表現は、厳密には、正しくない。正確には以下のように表現すべきだろう。
研究開発コミュニティーは「常に」危機に曝されてきた。過去が事実そうであった。現在も危機に曝されている。将来も、危機に曝される状況は続くだろう。時代によって違うのは、危機の内容と危機の度合いである。
21世紀初頭の現在、研究開発コミュニティー(あるいは研究開発)を取り巻くダークサイドはおおむね、「研究不正」「倫理的に不適切な行為」「偽論文誌・偽学会」「メディア操作」「疑似科学」に分類できる。これらの中で「研究不正」と「倫理的に不適切な行為」「疑似科学」は、近代の科学技術がヨーロッパで始まった19世紀半ばから、既に存在していた。一方、「偽論文誌・偽学会」は20世紀末に入って出現した、新しいダークサイドである。「メディア操作」は20世紀後半に報道機関(特にテレビ放送と新聞)が社会的な影響力を持つようになってから、顕在化した。
研究不正、倫理的に不適切な行為、偽論文誌・偽学会、メディア操作
ダークサイドの最たる代表は、「研究不正」だろう。「科学における不正行為(Scientific Misconduct)」「研究における不正行為(Research Misconduct)」とも呼ばれている。「研究不正」と称される行為は主に3つある。「捏造(ねつぞう)」「改竄(かいざん)」「盗用(とうよう)」である。これらの不正行為は科学技術の始まりとともにあった。ただし最近はデジタル・ツールの普及によって、手軽に不正行為に手を染められる状況が出現している。
「研究不正」は白黒で例えると「真っ黒」である。これに対して「真っ黒」だともいえるし、「灰色」だともいえるのが、「倫理的に不適切な行為」だ。「研究倫理に反する行為」と呼ぶこともある。具体的には「重複発表(重複投稿)」「不適切な引用(先行事例があるのに引用しないで無視する、先行事例の内容を誤認して引用する、など)」「不適切なオーサーシップ(研究開発に関与していない人物を著者に加える、など)」「性差別」(女性研究者に対する差別的扱い)などを指す。
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