Qualcomm/NXPの合併に立ちはだかる米中政府の壁(後編):M&Aの審査、状況が読みにくい(1/2 ページ)
政権が移行したばかりの米国では、M&Aの審査のプロセスがこれまでにないほど予測不能になっているようだ。QualcommによるNXP Semiconductors買収は、2017年末に完了する予定だが、それが伸びる可能性もある。
Qualcomm/NXPに残された選択肢は?
前編では、「中国商務部(MOFCOM)は過去にも、合併買収契約を破談に追い込んだことがあるのだろうか」「NXP SemiconductorとQualcommは、MOFCOMの承認と引き換えに、どの事業や技術を中国メーカーに売却あるいは譲渡する可能性があるのか」という2つの疑問について検証してきた。
3つ目の疑問は、「Qualcomm/NXPの一部の事業を中国メーカーに売却、というシナリオ通りにいかない場合、どんな選択肢が残るのか」ということだ。QualcommとNXPは、今後公表される最終契約には明記しないまま、MOFCOMと裏取引を交わすのだろうか。
Capitol Forumのレポートを執筆した弁護士であるAshley Chang氏は、「米連邦取引委員会(FTC)と米司法省(DoJ)は(EUの合併審査の場合は欧州委員会(EC)も)、構造的問題解消措置を積極的に支持する傾向にある。一方、MOFCOMは行動的問題解消措置を課する傾向にあることが知られている。多くの場合、中国では、関係各社は完全な分離措置よりも行動的問題解消措置に同意することになる」と述べている。
Chang氏が言う「行動的問題解消措置」とは、関係各社が資産を別々に所有しながら、それぞれが独立した形で合同事業を行う形を指す。こうした措置の下では、関係各社は(少なくとも中国国内では)効率を重視することができない。また、こうした措置には、取扱品目や研究開発、マーケティング、特許の販売やロイヤリティーの制限などの販売規制、価格の上昇に対する人的抑制などの投資要件も含まれている。
Chang氏は、中国が大きな障壁となった取引の事例として、2012年に発表されたMediaTekによるMStarの買収を挙げた。この取引は、2013年までMOFCOMの承認を得られなかった。
Chang氏によると、MediaTekとMStarの合併審査は、FTCとECの両方が調査を辞退したにもかかわらず、1年以上かかったという。MOFCOMは、ある特定の事業セグメントに関する特別協定を3年間守るように命じた。MediaTekとMStarの両社は、MOFCOMの承認なしに事業の統合や整理を行うことができなかった。両社は、MOFCOMによる四半期ごとの監視にも同意しなければならなかった。
Chang氏によると、特別協定は、米Seagate TechnologyによるSamsung ElectronicsのHDD事業の買収(2011年4月に発表)と、米Western Digitalによる日立製作所のHDD事業(日立グローバルストレージテクノロジーズ)の買収(2011年3月に発表)にも適用されたという。この2つの買収契約はほぼ同時期に交わされたが、MOFCOMはSeagate/Samsungの案件を2011年12月に、Western Digital/日立製作所の案件を2012年3月に承認した。同氏は、「これらの特別協定は、特に煩わしいものだった」と語る。同協定はグローバルに展開している事業にも適用され、統合を基本的に禁止していた。SeagateとSamsung、Western Digitalと日立製作所の各社は、研究開発、製造、販売、マーケティング、(資材や労働力の)調達に関して、それぞれが独立して事業を継続することを要求された」と説明している。
同氏はさらに、「この特別協定は自動的に失効されるものではなかった。2つの買収取引において、関係各社は措置の解除を申請しなければならなかった。SeagateとSamsungは1年後に申請を許可されたが、Western Digitalと日立製作所は申請まで2年待たなければならなかった」と付け加えた。
これらの両方の申請に対する審査は、長らく待たされた後2015年10月に承認された。「考えてみれば、これはかなりおかしなことだ。MOFCOMはこれらの企業の事業統合を事実上妨害し、それによって実質的な統合が約4年間も遅れた」(同氏)
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