Qualcomm/NXPの合併に立ちはだかる米中政府の壁(後編):M&Aの審査、状況が読みにくい(2/2 ページ)
政権が移行したばかりの米国では、M&Aの審査のプロセスがこれまでにないほど予測不能になっているようだ。QualcommによるNXP Semiconductors買収は、2017年末に完了する予定だが、それが伸びる可能性もある。
MOFCOMの常とう手段
NXPがMOFCOMと交渉するのはこれが初めてであるはずはない。2015年、NXPはFreescale Semiconductor買収の条件として、まずRFパワー事業を中国のJAC Capitalに18億米ドルで売却したのだ(関連記事:世界第2位のRF企業「Ampleon」が始動)。2016年には、汎用ロジック/ディスクリート事業を中国の投資家コンソーシアムに売却することを発表。これは、2017年2月からNexperiaとして営業を開始している(関連記事:NXP、汎用ロジック/ディスクリート事業売却)。
MOFCOMによる審査の対象となるM&Aではお決まりのプロセスのようにも思えるが、実はNXPは、実際に行動を起こす前に2度も申請しなくてはならなかった。
RFパワー事業および汎用ロジック/ディスクリート事業の売却以外に何か条件があったのかは、明らかにされていない。だが、特定の取引の事前審査を延期し、申請側に申請の取り下げや再申請を強要するのはMOFCOMにとって珍しいことではないようだ。当然ながら、M&Aを申請した側は、申請の却下を待つよりは、申請の修正案についてMOFCOMと協議する方に動くだろう。
M&Aの審査、米国では状況が読みにくい
政策主導で独占禁止法の執行が決定されるケースが増えていることについて、MOFCOMを非難するのは当然の論調といえる。だが皮肉なことに、Chang氏の指摘によると、米国の新政権下でも、M&Aの申請プロセスが、MOFCOMの審査のようになり始めているという。FTCやDoJによる独占禁止法の審査は、政治的な圧力を感じさせるものになっているようだ。
Chang氏は結論として、「Trump氏は何よりも雇用創出を重視しており、長年米国における独占禁止法の執行の最終目標になってきた『消費者の福利』まで軽視されつつある」と述べた。米国の合併審査プロセスは、これまでにないほど予測できないものになっているという。
East-West CenterのシニアフェローであるDieter Ernst氏も、Chang氏の見方に同意した。Ernst氏は「物事が以前より予測できなくなっているだけではない。中国と米国の両方で、秘密主義や操作的行動の傾向が強くなっているようだ。MOFCOMや他の機関の内部にいる信頼できる筋が、以前のように話そうとはしなくなっている」と述べた。
EE Timesは最後に、米国の外国投資委員会(CFIUS)による審査に関連したリスクについて質問した。CFIUSの審査は厳しさを増すのだろうか。もしそうならば、どれくらい厳しくなるのだろうか。
Chang氏は「現時点ではそれは誰にも分からない」と答えた上で、今は政権移行の時期なので、状況が非常に読みづらくなっていると述べた。
EE Timesは2017年1月に、Qualcommとの合併完了についてNXPに尋ねたところ、「当初の予定通り2017年末の完了を予定している」との回答を得た。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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