ドローンの安全利用のために、今求められること:東大教授の鈴木真二氏が語る(1/2 ページ)
危ないからドローンを使わないということでは技術が成長しない、便利な道具を使いこなせなくなってしまう――。東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻で教授を務める鈴木真二氏は、ドローンの安全利用のために、今求められていることについて講演した。
近い将来10兆円を超える市場規模に
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2017年2月、注目分野における最新動向や技術開発の方向性を討議する「TSC Foresight」セミナーを開催した。今回のテーマは「無人航空機(UAV)システム」と「生物機能を利用した物質生産」の2つだ。
本記事では、UAVシステムのパートから、東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻で教授を務める鈴木真二氏の基調講演を中心に紹介する。まずNEDOが公表している技術戦略研究センターレポートから、UAVの現状について触れたい。
UAVと聞くとなじみの少ない人が多いかもしれないが、ドローンだとイメージしやすいだろう。無人航空機やドローンの名称は混用されているが、同レポートではUAVで統一し、機体と運行管理のための地上サポート機器を含めてUAVシステムと呼んでいる。
UAVは大型から小型、用途としては軍事用から産業用、ホビー用など多岐にわたる。小型UAVの市場では、中国のDJI、フランスのParrot、米国の3D Roboticsの3社がほぼ独占しているという。しかし、NEDOでは「中国スマートフォンメーカーのXiaomi(小米)による機体開発、ウェアラブルカメラを手掛けている米国GoProも機体を発売するなど、異業種からも多くの新規参入が始まり、今後は価格競争が激化する」とみている。
pwcの試算結果によると、UAVシステム全体の世界市場はサービスの拡大が見込まれており、近い将来10兆円を超える規模に達することも同レポートで紹介されている。
民生用としては日本が初
鈴木真二氏は基調講演で、まずドローンの歴史から振り返った。
ドローンという言葉は、第二次世界大戦中に米国で軍用の射撃標的機として、ラジコン型の飛行機「ターゲット・ドローン」が使われたことが始まりという。ちなみに女優のマリリン・モンローは、ドローンの組み立て工場で働いていた際に、陸軍の広報カメラマンに写真を撮られたことが女優になるキッカケだったようだ。
ターゲット・ドローンは現在も使われているが、他の分野に展開されずにドローン市場が拡大することはなかった。民生用としては、1980年代に日本が農薬散布ヘリを農林水産省を中心に国家プロジェクトとして開発し、1990年から実用化している。農林水産省の資料によると、2015年度で2500機以上のドローンが活用されている。鈴木氏は「民生用のドローンが、最も利用されているのは日本である」と語る。
1990年代には、GPS(全地球測位システム)による位置の把握、衛星通信を通じたコマンドのやりとりや画像伝送が可能になり、偵察機としても利用されるようになった。
「昨今利用されているドローンは偵察機と違い、複数のプロペラで機体を制御するマルチコプターを採用している。PCやスマートフォンのリチウムポリマーの性能、無線通信などの技術が発達したことで、私たちの生活にドローンが身近となった」(鈴木氏)
ドローンについて、現状は空撮や農業で利用されているが、点検や物流、無線の中継などに活用することも期待されている。こうしたリスクが高い用途で安全に活用するためにも「さらなる技術開発と、制度の充実が求められる」(鈴木氏)とする。
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