ドローンの安全利用のために、今求められること:東大教授の鈴木真二氏が語る(2/2 ページ)
危ないからドローンを使わないということでは技術が成長しない、便利な道具を使いこなせなくなってしまう――。東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻で教授を務める鈴木真二氏は、ドローンの安全利用のために、今求められていることについて講演した。
米国のリスクに対する考え方
ドローンの安全な利用へ必要な基本の考え方として、鈴木氏は以下の4つを挙げる。
- リスク(事故の発生確率×事故の被害)に応じた規制であるべき
→「墜落なし」を条件にしてしまうと飛行機は飛べない。 - 性能に対する規制であるべき
→寸法や重量のような画一的なものでは、安全性を規定できない。 - 技術発展を阻害しないためにも、民間の自主的取り組みを取り入れるべき
- 国際的なルール作りに積極的に参加する
米国において、重さ250g以上のドローンは、ホビー用として使用する際にも登録義務対象となることが2015年に決定したという。鈴木氏は、250gという最低重量を決定した根拠として米国が示した計算を、リスクに対する考え方の一例になるとして紹介した。
250gのドローンが落下すると、空気抵抗なども考慮して約80ジュールの衝撃がある。80ジュールがどのような数値かというと、人間の頭に落ちた場合、31%の致死率であることが研究で分かっているという。
基本となる考え方にもあるように、鈴木氏は「危ないから、飛行を辞めろという話ではない」と指摘する。例えば、42.5m/秒の野球ボールが当たった場合の衝撃は127ジュール、76.0m/秒のゴルフボールは130ジュールだ。「ドローンだけ飛んでダメと言えない。どのくらいの被害が起こるかを算定することが重要」(鈴木氏)と語る。
1飛行時間当たりの致死率は、飛行時間当たりの故障率×落下エリアの人口×投影面積×暴露確率×致死率で求められる。米国では、100時間に1回の故障率、落下エリアの人口0.0039人/m2、投影面積0.02m2、暴露確率0.3、致死率0.3で計算。250gのドローン1飛行時間当たりの致死率は、4.7×10−8人になるとする。鈴木氏によると、4.7×10−8人は、軽飛行機が墜落して人が亡くなる確率よりもはるかに小さく、社会として許容できるとの判断から、米国では登録義務対象になる最低重量が250gと決められた。
安全利用のため緊急に求められること
日本では、2015年12月に航空法が改正され、人口集中地区や空港周辺、150m以上の高さの空域は、国土交通大臣の許可を受けた場合に飛行可能となった。夜間の飛行やイベント上空での飛行などにおいても、国土交通大臣の承認が必要となる。鈴木氏は「ある種の規制強化になるが、一方では、許可を得られたなら安心して飛行させることが可能となったため、ドローンを活用した業務が非常に活発となった」と語る。
このように国内でも法改正などが進みつつあるが、鈴木氏はドローンの安全な利用のために緊急に求められることについて、以下の3つを挙げた。
- ドローンの基本的な操縦技能、航空に関する知識、安全管理の知識の普及
- 安全な無線の管理
→ドローンでは、2.4GHz帯と5.7GHz帯の利用が総務省で認められた。鈴木氏が代表を務める日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)を2016年7月に発足。電波を利用する際の調整機関として担えるよう活動を進めているという。 - 有人機と無人機の衝突防止
→東京大学とANA総研、天草市による協定の一環で、防災ヘリとドローンの安全を確保した連携について実証実験を行った。NEDOにおいても、ドローンを活用した物流システムの性能評価手法のため、実証実験などを進めている。
基本的な技能と知識と普及では、鈴木氏が理事長を務める日本UAS産業振興協議会(JUIDA)が主催する認定スクールを紹介した。JUIDAでは、ドローンの安全な利用のためには操縦者の育成が重要と考えており、基準を満たす学校、企業などを教習スクールとして認定している。2016年11月現在、計38校の認定スクールが開校している。ライセンス取得者が全国で増加しているため、今後は地方自治体と協定を締結し、災害などの非常時に民間のドローンを活用する仕組み作りを進めていくという。
「危ないからドローンを使わないということでは技術が成長しないし、便利な道具を使いこなせなくなってしまう。安全な技術開発、さまざまなルール作り、利用する人の教育、こういった三位一体の取り組みが必要なのではないだろうか」(鈴木氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “CPU大国への道”を突き進む中国、ドローン分解で見えた懸念
中国DJIのドローン「Phantom 4」には、28個ものCPUが搭載されている。CPUの開発で先行するのは依然として米国だが、それを最も明確に追っているのは中国だ。だが分解を進めるにつれ、「搭載するCPUの数を増やす」方法が、機器の進化として、果たして正しい方向なのだろうかという疑問が頭をよぎる。 - 悪質なドローン見つけ、制御不能に追いやる技術
ローデ・シュワルツは、2016年9月にドローンの検知/監視/対策できるソリューション「ARDRONIS」を国内で展開する。ARDRONISはアンテナやレシーバーで構成され、ドローンを検知するだけでなく、操縦者の居場所を方位で特定し、電波にノイズを付加する「ジャミング」を行うことで制御不能にできる。しかし、同社によると、国内でジャミングは利用できないという。 - まるで“空飛ぶプロセッサ”、進化する中国ドローン
商用、ホビー用ともにドローン市場で大きなシェアを持つ中国DJI。そのドローンの進化には、目を見張るほどだ。2016年前半に発売された「Phantom 4」には、実に90個を超えるチップが使われている。 - Google、ドローンから5Gを提供?
Googleが、ドローンから5G(第5世代移動通信)を提供する計画「Project SkyBender」に取り組んでいるという。 - ドローンには専用周波数帯が必要、専門家が議論
ホワイトハウス敷地内にドローンが墜落したり、ドローンに銃を取り付けて発砲したりと、米国ではドローンに関連するトラブルが多く取り沙汰されている。専門家たちは、ドローンを制御するためには、いずれは専用の周波数帯が必要になるだろうとしている。 - ドローンを人道支援に活用、食料や医薬品をシリアへ
紛争現場などでの人道支援に無人航空機(ドローン)を活用するプロジェクトが進んでいる。内戦状態が続くシリアの都市に、トルコから食料や医薬品を、ドローンを使って運び、空中投下することを目指す。