MRAM、参照層スペーサーにイリジウム採用:大容量化と大量生産を加速
産業技術総合研究所(産総研)は、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の性能向上や大量生産を可能とする参照層を開発した。
広範囲なスピントロニクスデバイスに応用可能
産業技術総合研究所(産総研)スピントロニクス研究センター金属スピントロニクスチームの研究チーム長を務める薬師寺啓氏は2017年2月、次世代の不揮発性メモリといわれる磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の性能向上や大量生産を可能とする参照層を開発したと発表した。
産総研は、電流書き込み型MRAM(STT-MRAM)の大容量化に向けて、高性能なTMR素子の発明や、東芝と共同で垂直磁化TMR素子ベースのSTT-MRAMを試作するなど、STT-MRAMの開発で業界をリードしてきた。ところが、微細加工技術が進化しTMR素子が小さくなると、構成要素の1つで記憶層情報の判定基準である「参照層」の強固さを確保するのが難しくなるという。
そこで今回、薄膜積層技術をベースに、強固な参照層を実現するための研究開発に取り組んだ。開発した垂直磁化TMR素子は、参照層/トンネル障壁層/記憶層で構成され、各層の厚みは数ナノメートルである。特に、参照層は上部強磁性体層と下部強磁性体層の間にスペーサー層があり、その厚みは約0.5nmと極めて薄い。
3層構造の参照層で、ルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)といった特定のスペーサー材料の厚みを約0.5nmと薄くした場合に、上下の強磁性層の磁化方向が逆向き(反平行)の磁化配置の状態では強固に結合(反平行結合)する。反平行結合が強い場合、参照層は強固になるため、結合の強さ(Jex)を大きくする必要があるという。
TMR素子の直径が20nm以下のMRAMでは、Jexが1.8erg/cm2を上回る必要がある。この数値は、これまでスペーサーに用いていたルテニウム(最大2.2erg/cm2)においても達成することはできるが、スペーサー厚を0.38〜0.48nmの範囲に制御する必要があった。
イリジウムを用いるとJexは最大2.6erg/cm2となり、ルテニウムに比べ約20%増加する。しかも、Jexを1.8erg/cm2以上とするには、スペーサー厚を制御する範囲が0.38〜0.57nmと、ほぼ2倍に広がった。その分、厚みの制御が比較的容易となり、製造プロセスの面でも大量生産に有用となる。
産総研は、スペーサー層にイリジウムを用いたSTT-MRAMを試作し、その性能評価を行った。その結果、データの読み出し特性(MR比)やデータの書き込み特性、耐熱性など各種特性は、ルテニウムを用いた製品と遜色はなかった。イリジウムを用いたことによる性能劣化は見られず、参照層を強固にすることができたという。
今回開発したイリジウムスペーサーを含む参照層の技術は、あらゆる世代のSTT-MRAMや電圧トルクMRAM、さらにはスピントルク発振素子などにも応用できるとみている。
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