理研ら、酸化亜鉛で異常ホール効果を観測:磁性と高速制御の両立を可能に(1/2 ページ)
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、高品質な酸化亜鉛が磁性伝導電子を持っていることを発見した。低消費電力デバイス用の新たな材料として注目される。
少量の結晶欠陥が小さな磁石として機能
理化学研究所(理研)やマックスプランク微細構造物理学研究所、東北大学による国際共同研究グループは2017年3月、高品質な酸化亜鉛が磁性伝導電子を持っていることを発見したと発表した。これまでの半導体では困難であった「磁性」と「高速制御」の両立を可能にする低消費電力デバイス開発の手掛かりになるとみられている。
今回の研究成果は、理研創発物性科学研究センターの研究員であるデニス・マリエンコ氏やグループディレクターの川崎雅司氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、上級研究員のアンドレイ・ミシェンコ氏、グループディレクターの永長直人氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、ユニットリーダーのサイード・バハラミー氏(東京大学大学院工学系研究科特任講師)、そしてマックスプランク微細構造物理学研究所の研究員であるアーサー・エルンスト氏、東北大学金属材料研究所の教授である塚崎敦氏らの国際共同研究グループによるものである。
磁性半導体は、不揮発性メモリなど低消費電力デバイス用の新たな材料として注目されている。これまで、非磁性半導体にマンガンなど磁性元素を少量混ぜることで磁性半導体を実現してきた。しかし、電子の移動速度が低下するなど、実用化に向けては課題もあった。こうした中で、川崎氏らは2015年に、従来の半導体と同レベルの品質を有する酸化亜鉛の単結晶薄膜を作製することに成功した。この薄膜内部を流れる電子は、従来の半導体に比べて電子同士の反発が強く、磁性を持たせるのに有用なことも分かっていたという。
正常ホール効果と異常ホール効果。正常ホール効果では半導体に磁場を加えることによって伝導電子の軌道が曲げられ、試料の端に電子が蓄積して電圧が発生する。異常ホール効果では、磁場を加えなくても伝導電子の磁化によって電子の軌道が曲げられて、同様に電圧が発生する 出典:理化学研究所他
国際共同研究グループは今回、川崎氏らの研究成果に基づき、酸化亜鉛を流れる伝導電子の振る舞いなどを、磁場中で詳細に観察した。その結果、「異常ホール効果」が生じていることが分かった。これは伝導電子が磁性を持つときに特徴的に生じる現象である。さらに、理論的解析を行ったところ、酸化亜鉛中に存在する少量の結晶欠陥が小さな磁石として働き、伝導電子に磁性を持たせていることも判明した。
国際共同研究グループは、異常ホール効果を測定するため、試料となる酸化亜鉛のインジウム電極に電流計と電圧計を接続した。その上で試料面と垂直に磁場を加えながら電圧を測定した。測定した酸化亜鉛中のホール抵抗は、加える磁場が大きくなるとホール抵抗が上昇し、磁場が一定の大きさになると飽和した。このようなホール抵抗の振る舞いが、異常ホール効果と一致しているという。測定されたホール抵抗は、温度が低いほど大きくなることも分かった。なお、これまで作製してきた酸化亜鉛の単結晶薄膜で異常ホール効果は観測されなかった。今回は薄膜の品質を高めたことで観測することができたという。
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