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外交する人工知能 〜 理想的な国境を、超空間の中に作るOver the AI ―― AIの向こう側に(10)(3/9 ページ)

今回取り上げる人工知能技術は、「サポートベクターマシン(SVM)」です。サポートベクターマシンがどんな技術なのかは、国境問題を使って考えると実に分かりやすくなります。そこで、「江端がお隣の半島に亡命した場合、“北”と“南”のどちらの国民になるのか」という想定の下、サポートベクターマシンを解説してみます。

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メシを生産する人口は減った、では自給率は?

 製造業や建築業のような、明らかな「モノ」に対する人口減少は想定内でした。

 例えば、製造業については、海外製品の輸入や、組み込みソフトウェアによる製品のコモディティ化は、毎日、ひしひしと実感していますし、建築業については、新規物件よりも、現存の物件のメンテナンスや老朽化対応(ソフトサービス)にシフトしています。

 その一方で、ショックだったのは、「メシ」(つまり、農業、畜産、水産)に関する壊滅的な人口減少です(これについては後述します)。

 しかし、この数字だけで、「このトレンドの主犯がPCである」と決めつけることは難しいと思います。

 むしろ、「モノ」と「メシ」に関しては、中国など海外への依存度が最大の原因だと思いますし、水道、ガス、電気の社会インフラに関しては、「人口減少」が主たる理由でしょう。

 しかし、

  • 駅前の本屋を、廃業に追い込み、
  • 出張先の工場の最寄りの駅の商店街を、シャッター通りにして、

そして、

  • 週末の外出(必要な電気部材(抵抗やIC)の買い出し)日数をゼロにした――。

 その犯人は、Amazonであり、楽天であり、秋月通商の通販であり、それらを利用する私(そして恐らくは読者の皆さんの多くも)であり、そして、その共犯者が「PC(+インターネット)」であることは、疑いようもありません。

 なにしろ、今の私は、本や日用品のみならず、ワイシャツやスラックスすらAmazonで購入しているくらいです(例えばこちら)。

 「衣服なんぞに1mmも興味はない」「興味のないものにコストを投じたくない」が、一方で「ジーンズでは出社できない」という、厄介な中間管理職の研究員の立ち位置にミートした、見事な商品戦略だと思います。

 今後、Amazonが、パックの鶏肉や豚肉、魚の切り身、野菜の宅配を、本格的に始めれば、私の人生から「買い物のための外出」という概念自体が消えてなくなると思います。

 それでも「メシ(の生産)」の問題だけは残ります。

 確定申告、図書館の本の予約、住民票の交付に至るまで自宅のPCやスマホからできるようになり、ダウンロードしたデータを使って、自宅の3Dプリンタで日用品を製造できる時代になったとしても、「メシ」だけはデジタル化できないからです

 現在の、日本の食料自給率は、先進国では最低レベルです*)

*)ちなみに、全世界レベルで見ると日本より悪い国は50カ国もありますが、それらのほとんどがアフリカまたはアジアの国々で、その理由は、水不足、洪水などの気候的な原因に加えて、長期的な紛争や内戦によるものです。

 1980年から「メシ」を作っている人の人口が63%も減っているのですから、当然、国内の「メシ」の生産量も同じくらい減っただろうと考えて、ちょっと調べてみたのですが、意外なことが分かってきました。

 確かに自給率は悪化しています。 ―― が、「メシ(の生産)」に従事している人の減少(63%)ほどには、自給率は減少していないのです(26%)。それどころか、「メシ(の生産)」に従事している人は、数字を見るだけでは、この30年間で生産力を2倍近く上げたことになります。

 今回、これについての詳しい検討は割愛しますが、各種の生産技術の改良に加えて、PCとネットワークによって、生産者間で出荷計画を調整し、生産者と消費者を直結することによって、このような驚異的な生産力を実現してきたのも事実です(参考)。

 以上、「PCが、私たちの仕事を奪ってきた」の仮説は採択できると考えます。しかし、同時に「PCが、私たちの仕事を効率化し、新しい仕事を提供してきた」ということも言えます。

 今回の検証で、ここ30〜40年にわたる、「PCによる世界の破壊(殺りく)は確かに凄かった」と結論づけることができるとは思います。しかし、私たちは、ラッダイト運動*)のような、「PCの打ちこわし」などはしませんでした。

*)200年前のイギリスで、産業革命に伴う機械使用の普及による失業のおそれを感じた手工業者・労働者が起こした機械破壊運動(参考)。


“PC版ラッダイト運動”など起きなかった

 PCが作り出した新世界の中でも、私たちはなんとかやってきたのです。

 冒頭で、私は『これまでPCがやってきた世界の破壊に比べれば、「AIに仕事を奪われる」ことの恐怖なんぞ、はっきりいってゴミです』と述べましたが、今回の検証を経て、その思いは確信に変わりました

 私たちは、AI技術によって、これからもいろいろと厄介な目に遭遇するかもしれませんが、その度にうっとうしい思いをしながらも、それでもなんとかやっていけるでしょう。

 大丈夫です。だって、皆さんの多くは、あのスマートフォンに軽々と日本語の入力をやってのける、すごい能力があるじゃないですか ―― 私と違って

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