外交する人工知能 〜 理想的な国境を、超空間の中に作る:Over the AI ―― AIの向こう側に(10)(8/9 ページ)
今回取り上げる人工知能技術は、「サポートベクターマシン(SVM)」です。サポートベクターマシンがどんな技術なのかは、国境問題を使って考えると実に分かりやすくなります。そこで、「江端がお隣の半島に亡命した場合、“北”と“南”のどちらの国民になるのか」という想定の下、サポートベクターマシンを解説してみます。
空間を「ひん曲げる」
では、最後に、この空間を「ひん曲げる」のイメージを具体的に説明しましょう。
これはつまり、こういうことです。
普通は、こんな国境を作ることはできません。しかしサポートベクターマシンの真骨頂は、先ほど述べたカーネルトリックであり、ぶっちゃけ、カーネルトリックとは、“半島を2階建てにする”、ということなのです。
このような高次元空間を考えれば、国境は1Fと2Fでぶった切ればよく、マージンも簡単に作ることができます。サポートベクターマシンはデータを入力すると、カーネル空間や次元の追加を行い、このような国境を(原則として)自動的に作ってしまいます。
これが、サポートベクターマシンが機械学習型のAI技術といわれるゆえんです。
さて、このような学習を終えた、本国境問題を取り扱うサポートベクターマシンに対して、江端が亡命したい場所(緯度や経度など)を入力すると、<北>または<南>のいずれかの国民になるのかが自動的に決まることになります。
このようにサポートベクターマシンは、次元を増やしさえすれば、2つ以上の国境を自由自在に作ることができます(国民の数だけ、国家を作ることも可能です)。
しかし当然のことながら、そのようなムチャな高次元化をすれば、解空間が広大となり、現実的な時間内で学習を完了させることは困難(というか不可能)になります。
ですので、実際にはサポートベクターマシンにおいては、前述したように「諦めてもらう人」が存在することを前提として、機械学習をすることができるようにもなっています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.