ムーアの法則、半導体業界はどう捉えるべきか(前編):技術開発の指針の役割は終えた?(1/2 ページ)
台湾Etron TechnologyのCEOであるNicky Lu氏は、「ムーアの法則」は、技術開発の方針としての役目を既に終え、ビジネス的な意味合いの方が強くなっていると述べる。半導体メーカーが今、ムーアの法則について認識すべきこととは何なのか。
ムーアの法則の「形骸化」
Intelは、同社の14nmプロセスチップのトランジスタ数が競合製品よりも多いとして、「ムーアの法則はまだ終息を迎えていない」との主張を今後も続けるだろう。IntelがIntelであるためには、自らの目的を達成するためのストーリーが必要なのだ。
しかし、より優れた価値を探し求めている他の半導体メーカーが、このようなIntelのストーリーを適用する必要は必ずしもない。
今や、プロセス技術の名称は、あまり意味を成していないといえる。これまで、ムーアの法則が終息するという点ばかりが誇張されてきたために、半導体メーカーが開発の指針として信じることができるような、代替となる法則が明示されてこなかったのだ。
台湾のメーカーであるEtron Technologyの創設者であり、チェアマン兼CEO(最高経営責任者)を務めるNicky Lu氏は、「半導体業界が今後、経済成長を推進していくためには、最終的に、ピッチの縮小を実現するという強迫観念から逃れ、さまざまな技術を統合する(異種統合)という独創性を発揮していかなければならない」と述べている。
つまり、「ムーアの法則を、安心感を得るためだけの手段として利用すること」をやめるべき時が来たということだ。
筆者は2017年4月末に、台湾でLu氏に取材した。同氏はこの時、「Intelが、22nmプロセス技術向けに非プレーナ型のトランジスタ構造を発表した時点で、ムーアの法則は既に形骸化していた」と主張し、その経緯について詳細を語っている。
Lu氏は、「Intelは、私がムーアの法則の形骸化を主張していることについて、快く思っていないだろう。しかし、ムーアの法則はかなり前から、半導体開発エンジニア向けの技術指針としての役割を停止してしまっている。その代わりに、投資コミュニティー向けに、ROI(Return On Investment:投資利益率)を正当化するための経済法則としての機能を果たしてきたのだ」と述べる。
投資家たちが、ムーアの法則を半導体業界の成長を計る物差しとして使用している限り、半導体メーカーは、ムーアの法則が既に陳腐化していることを認めることができない。Lu氏でさえ、ムーアの法則の無効化を明言してはいないのだ。
だがLu氏は、「半導体業界にとって重要なのは、IntelがFinFETを採用し、TSMCとSamsung Electronicsもその後に続いた時点で、競争のルールが変更されたという事実を認めることである。半導体業界は、ゲート長をプロセスノードとしたことにより、ムーアの法則の本質そのものを根本から変えたのだ」と主張する。
同氏の見解によれば、半導体業界は、もはやムーアの法則の原型には従っていないという事実を認識することが重要だという。ムーアの法則はこれまで、トランジスタを小型化することによってではなく、パッケージング技術の進化など、さまざまな技術をサポートすることによって、存続してきたといえる。
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