次世代有機EL材料、発光メカニズムの謎解明:有機ELデバイスの高効率化に道(1/2 ページ)
産業技術総合研究所(産総研)と九州大学が、次世代有機EL材料「熱活性化遅延蛍光分子(TADF分子)」の発光メカニズムを解明。高い効率を持つTADF分子がパラ体という共通の構造を持つことを突き止めた。
仮説に反する事例の存在
産業技術総合研究所(産総研)と九州大学は2017年5月11日、次世代有機EL材料「熱活性化遅延蛍光分子(TADF分子)」の発光メカニズムを解明したと発表した。TADF分子の発光効率を高める要因が、従来考えられていたものと異なることが、今回の研究で明らかになった。
TADFとは、三重項状態の分子が室温の熱エネルギーで一重項状態へと変換した後に放出される蛍光のことだ。希少金属が不要なため、低コスト化や高効率化の切り札とされている。2012年に九州大学が初めて、炭素、窒素、水素だけでできた有機化合物のTADF分子を開発した。
開発当初はまだ発光メカニズムの詳細は不明で、一重項状態と三重項状態のエネルギー差「ΔEST」が室温の熱エネルギー近くまで小さいほど、TADFの発光効率が高いと考えられていた。しかし最近になって、ΔESTが室温と懸け離れた分子にも、100%に近い発光効率を示す事例が報告されるようになった。
そこで産総研と九州大学は共同で、TADF分子の発光メカニズムを解明する研究を行った。従来はΔESTだけに注目していたが、今回は特に一重項状態と三重項状態の種類(励起種)に着目した。励起種の検出に用いたのは、産総研が開発した「ポンプ・プローブ過渡吸収分光法」。この分光法は、材料の励起状態での光吸収を10兆分の1秒から1000分の1秒までの時間領域において、紫外光や可視光から赤外光までの波長領域で測定できる。
パラ体構造に生成する電荷非局在励起種が高効率の肝
研究ではまず、8種類の分子について有機ELの発光量を調べた。すると、ΔESTが小さい4CzIPN(1)は発光効率が高く、ΔESTが大きい2CzPN(2)は発光効率が低くかった。つまり、(1)と(2)に関してはΔESTと発光効率の間に相関が見られた。しかし、para-3CzBN(3)、4CzBN(4)、5CzBN(5)は、ΔESTが室温の熱エネルギーの約10倍にもかかわらず、TADFを強く発光した。
次にこれらの結果をもとに、TADFの有無で分子を分類したところ、TADFを強く発光する分子群が全てパラ体であることが分かった。そこで、8種類の分子全てに超短パルスレーザー(励起光)を照射し、励起状態の時間変化を過渡吸収分光法で観測した。その結果、パラ体である(1)(3)(4)(5)の分子にだけ特徴的な励起状態が生成していることが分かった。
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