強誘電体の基礎知識(後編)〜分極とは何か:福田昭のストレージ通信(59) 強誘電体メモリの再発見(3)(1/2 ページ)
誘電体材料を考えるときの共通の性質が「分極(polarization)」である。今回は、外界電圧と分極の関係性と、分極のメカニズムを解説する。
分極と外部電界の関係式
前編では、強誘電体(ferroelectric materials)が誘電体(dielectric materials)の中でもかなり特殊な材料であることを説明した。誘電体の一部に圧電体があり、その一部に焦電体があり、その一部が強誘電体になっているということだ。お互いに入れ子の構造になっている。
これらの誘電体材料を考えるときに共通の性質が「分極(polarization)」である。誘電体は本来、電気的には極性を帯びていない。電気的には中和された状態にある。全ての誘電体は、電界を加えると極めて小さな領域における電荷の偏り、すなわち「分極」を生じるようになる。そして電界を外すと分極が消える。
しかし一部の誘電体は、電界以外の物理的な刺激によって、分極を生じる。さらに一部の誘電体は、分極が消えない。そして強誘電体は、電界を外しても分極が残る材料であることは、既に説明した。
それでは外部電界と分極とは、どのような関係にあるのだろうか。ここからは電気工学の記号と数式が登場する。数式が苦手な方には、しばらくご容赦願いたい。
はじめは誘電体材料が存在しない、真空の状態を考えよう。真空の電気変位(あるいは電束密度)(D0)は、真空中の外部電界(E)と真空の誘電率(ε0)の積(掛け算)になる。次に誘電体が存在する状態を考える。真空と同様に、誘電体の電気変位Dは、外部電界(E)と誘電体の誘電率(ε)の積(掛け算)になる。
ここで誘電率(ε)に注目しよう。この値を電気工学の世界でそのまま使うことはあまりない。普通は誘電率(ε)を、真空の誘電率(ε0)と「比誘電率(εr)」の積で表記する。そして「比誘電率(εr)」だけを扱うことが多い。なぜなら、真空以外の材料で誘電性を論じるときに使うのは絶対値ではなく、相対値であるからだ。相対値である「比誘電率(εr)」を使った方が、数学的な取り扱いは絶対値よりもはるかに簡単に済む。
「比誘電率(εr)」を基本に考えると、電気変位(D)は、ε0とεrの2つの項に分割できる。具体的には、ε0とEの積の項と、ε0と(εrマイナス1)とEの積の項である。前者は真空の電気変位(D0)であることが分かる。そして後者が「分極(P)」になる。
ところで、比誘電率をεrと表記すると、真空中の誘電率ε0との違いは添字(サブスクリプト)のrと0だけになる。サブスクリプトの文字は小さいので、一見しただけでは区別しにくい。そこで半導体工学の世界では、比誘電率を「εr」ではなく、「k」と表記することが一般的である。なお、絶縁膜に使われる高誘電率材料を「high-k(ハイケイ)」、低誘電率材料を「low-k(ロウケイ)」と呼ぶのは、kが比誘電率を意味するからだ。
そこで「分極(P)」を「比誘電率(k)」で表記すると、Pはε0と(kマイナス1)とEの積になる。つまり、分極の大きさは、比誘電率(必ず1以上になる)マイナス1の値、および電界の強さに比例する。
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