強誘電体の基礎知識(後編)〜分極とは何か:福田昭のストレージ通信(59) 強誘電体メモリの再発見(3)(2/2 ページ)
誘電体材料を考えるときの共通の性質が「分極(polarization)」である。今回は、外界電圧と分極の関係性と、分極のメカニズムを解説する。
3種類の分極メカニズム(電子分極、イオン分極、配向分極)
それでは、分極はどのようにして起こるのだろうか。誘電体内部で分極(誘電分極)が生じるメカニズムは大きく、3つに分かれる。「電子分極(electronic polarization)」「イオン分極(ionic polarization)」、そして「配向分極(orientation polarization)」である。
電子分極は最も微小な分極で、原子内部で起こる。通常、原子核(正電荷)は電子殻(負電荷)の中心に位置しており、両者の電荷が完全に中和するので、外部から見ると分極は生じていない。しかし外部から電界を加えると、原子核(正電荷)と電子殻(負電荷)は反対の方向に動こうとする。実際には原子核が電子殻に比べてはるかに重いので、電子殻だけが位置をずらす。すると電子殻(電子雲)の中心位置が原子核の位置からずれ、分極が生じる。なおこのような正と負の電荷対を「電気双極子(electric dipole)」と呼ぶ。
イオン分極は、正のイオンと負のイオンで構成されるイオン結晶で起こる。通常、イオン結晶の正イオンと負イオンは中和しており、全体として電荷は帯びていない。外部電界を加えると、正イオンと負イオンが反対の方向にわずかに位置をずらす。このことで電荷の分布に偏りが起こり、分極が生じる。
配向分極は、上記の2つの分極とは少し異なる。誘電体中に、微小で膨大な数の電気双極子が存在している状態をはじめに考える。電気双極子の方向はランダムなので、全体としては電荷が中和されている。電荷を帯びていない。ここで外部電界を加えると、電気双極子の方向が外部電界を打ち消す方向にそろう。この結果、分極が発生する。
(次回に続く)
⇒「福田昭のストレージ通信」連載バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 強誘電体メモリが再び注目を集めている、その理由
FeRAM(強誘電体不揮発性メモリ)の研究開発の熱気は、2000年代に入ると急速に衰えていった。だが2011年、その状況が一変し、FeRAMへの関心が再び高まっている。そのきっかけとは何だったのだろうか。 - SanDiskが語る、ストレージ・クラス・メモリの概要
ストレージ・クラス・メモリ(SCM)は、次世代の半導体メモリに最も期待されている用途である。今回は、このSCMの要件について、記憶密度やメモリアクセスの制約条件、メモリセルの面積の観点から紹介する。 - 阪大ら、省エネ磁気メモリを実現する新原理発見
大阪大学の三輪真嗣准教授らは、電気的に原子の形を変えることで、発熱を抑えた超省エネ磁気メモリを実現できる新しい原理を発見した。 - 印刷で薄くて柔らかいモーターを実現
東京大学の川原圭博准教授らの研究グループは、印刷技術を用いて、薄くて柔らかい軽量なモーターの作製に成功した。ソフトロボットへの応用などが期待される。 - MIPSコンピュータをめぐる栄枯盛衰
RISCプロセッサの命令セットアーキテクチャである「MIPS」。そのMIPSを採用したワークステーションの開発には、日本企業も深く関わった、栄枯盛衰の歴史がある。 - 東芝がQLCの3D NANDを試作、96層プロセスの開発も
東芝メモリは、同社の3D NAND型フラッシュメモリ「BiCS FLASH」について、4ビット/セル(QLC)技術を用いた試作品と、96層積層プロセスを用いた試作品を開発し、基本性能を確認したと発表した。