上司の帰宅は最強の「残業低減策」だ 〜「働き方改革」に悩む現場から:世界を「数字」で回してみよう(41) 働き方改革(1)(1/11 ページ)
あなた(あなたの会社)は、「働き方改革」に本気で取り組んでいますか? 読者の皆さんの中には、「誰かの上司」という立場である方も極めて多いと思われます。そんな皆さんに伝えたい――。シミュレーションで分かった「残業を減らす最善策」、それは皆さんが今すぐ、とっとと帰宅することなのです。
「一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジ」として政府が進めようとしている「働き方改革」。しかし、第一線で働く現役世代にとっては、違和感や矛盾、意見が山ほどあるテーマではないでしょうか。今回は、なかなか本音では語りにくいこのテーマを、いつものごとく、計算とシミュレーションを使い倒して検証します。⇒連載バックナンバーはこちらから
あの日、編集部に響いた高笑い
シリーズが最終回に近づくころになると、日曜日の午後に、EE Times Japanのオフィスにお伺いして、打ち合わせをしています(編集部が、私の好きなスイーツを用意するのが暗黙の了解になっています)。次の連載テーマを決めるためです。
その際、「江端の持ちネタの棚卸(たなおろし)」をするのが恒例でして、今回も、私、21個のネタと2つの推しネタを携え、満を持して編集部に乗り込みました。
いや、もちろん、冷酷に「却下」と言われたわけではありません。「それはいいですね!」「面白いです。ぜひ読みたいです!!」という言葉を交えながらも ―― なんとなく、誘導されていると感じつつ、編集長のTさんに言われました。
―― 江端さん。今度の連載「働き方改革」でどうでしょうか?
は? 「働き方改革」?
―― このテーマなら、江端さんの「引き出し」の中身の幾つかも含めることもできますよ
ちょっと待った。そりゃ、「含めること」はできるかもしれないけど、そのテーマは「壮大」過ぎるし、その上「重い」。長時間労働による過労死問題がピックアップされている昨今、このテーマは、一歩取り扱いを間違えると、もう週末ライターとしては「死亡フラグ」になりかねません。
そもそも、私、「働き方改革」なんて、信じていません*1)し、かつては、誰も入ってこられないサーバ室に隠れて仕事していたくらいですし*2)。
*1)私が新人のころ、オフィスの最終退出の施錠をしながらふと辺りに目をやると、『ゆとりのある生活の実現』の施策のために、毎晩、深夜まで、労働組合の部屋の電気だけが明々と点灯していたのを覚えています。
*2)関連記事:「英語の文書作成は“コピペ”で構わない:江端的最終手段――「神を降臨させる」」
私の連載のテーマとして、「働き方改革」は、これ以上ないくらい最悪の選択肢だと思いました。もう、何を書いても、誰よりも先に「お前が言うな」と、私自身が突っ込みかねません。
ところが、編集長のTさんが放った、次の「一言」が、私の心を揺り動かしました。
Tさん:「いきなり『定時で帰宅しろ』と言われても、『そんなムチャな!』って思いませんか! ねえ、江端さん!」
江端:「は、はい?」
Tさん:「『働き方改革』が、『現場を苦しめ』て一体どうするんだ、って思いませんか! ねえ、江端さん!」
―― あー。なるほど。そっちの方向でいいんだ。
それなら、書けるかもしれないなーという気がしてきました。
私は、この世間の流れに沿って、「『働き方改革』ガンバロー! オー!!」の側に立たなければならないと思っていたので、直感的に「無理、無理、無理、無理」と感じてしまったのですが、なるほど、そういう「方向」でいいなら、言いたいこと、書きたいこと、計算したいことは、山ほどある。
そもそも、この「働き方改革」は、なかなか本音で語り難いフレーズです。極端なことを言えば、「世界平和」や「戦争反対」にケチを付けるのが難しいのと同じくらいです*)。
*)なにしろ、あのイスラム原理主義者(のごく一部)のテロリストですら、「世界平和」を掲げてテロを実行しているくらいですから。
ともあれ、これを「数字」と「シミュレーション」で読み解き、見える化するアプローチは、「悪くない」です。これが「悪くない」ということは、前回の「人身事故シリーズ」でも実証できたように思えます。
『ふっふっふ、EE Times Japan編集部. お主も悪よのう』
『いえいえ、江端殿のお手練(Excelとかプログラムとか)ほどでは……ほっほっほ』
という内なる高笑いが、確かに、あの日曜日、EE Times Japan編集部のオフィスに響いたのです。
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