弱いままの人工知能 〜 “強いAI”を生み出すには「死の恐怖」が必要だ:Over the AI ―― AIの向こう側に(13)(5/9 ページ)
AI(人工知能)には、「人間のアシストをする“弱いAI”」と「知性を持つ“強いAI”」があるという考え方があります。私は、現在の「AI」と呼ばれているものは、全て“弱いAI”と思っています。では、私たちは“強いAI”を生み出すことができるのでしょうか。それを考えるには、人間にとって、恐らくDNAレベルで刻まれているであろう普遍的な感覚、「死への恐怖」がヒントになりそうです。
「強いAI」とは
では"強いAI"とは何か ―― それは「10代の子どもを持つお母さん」です。
そのお母さんは、「女の子あるいは男の子とは、かくあるべき」という世界観を主観的かつ独善的に生成します。
そして、その世界観に基づき「男の子は、メソメソ泣いてはならない」「女の子は、門限までに帰宅しなければならない」「成人しても、男の子はいいけど、女の子はタバコを吸ってはいけない」という、説明不能な非論理的なルールを勝手に生成します。
さらに、それを根拠なく独善的に運用するだけでなく、「他の家の子ども」には適用しない(いわゆる「人は人、うちはうち」)という例外や矛盾を含むことをものともせず、その例外や矛盾の理由を一切説明することなく、その世界観を維持し続けます。
そのような「10代の子どもを持つお母さん」のように動作するAIこそが、"強いAI"であるのですが、コンピュータは、例外や矛盾を包含することを恐ろしく苦手としており、ましてや、独善的な世界観を構築する能力など、ひとかけらもありません。私が知る限り、そのようなAIは世界中探しても、どこにもありません。
つまり、今、世の中に存在しているAI技術は、全て"弱いAI"なのです。
ですから、これからは、「"AI"が小説を書いた」ではなく「"弱いAI"が小説を書いた」、あるいは、「AIが作曲をした」ではなく「"弱いAI"が作曲をした」という風に記載することを、私は提言したいと思います。
そうすれば、「AIが人類を滅亡させる」だの「AIが国家を乗っとる」だのという、バカげた妄想を触れ回っている人間の数は、少しは減るのではないかと思います(「"弱いAI"が人類を滅亡させる、国家を転覆させる」という主張なら、まあO.K.としましょう)。
もちろん、AI研究者の究極の夢は、「ティーンエージャーの子どもを持つお母さん」……じゃなくて、"強いAI"を作り出すことにあります。
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