多層積層型有機ELの電子の動きを分子レベルで計測:有機EL素子の高効率化などに貢献(1/2 ページ)
有機EL素子駆動時の内部の電荷の挙動を分子レベルで非破壊的に計測できる新たなオペランド計測技術を、産総研らが開発した。かつて開発した和周波発生分光法(SFG分光法)「電界誘起2重共鳴SFG分光法」と、時間分解という手法を組み合わせている。
数十ナノ秒の精度で分子の変化を追跡
産業技術総合研究所(産総研)は2017年8月31日、有機ELテレビなどに使われる多層積層型有機EL素子の内部における電荷の生成や輸送、界面での再結合挙動を素子の破壊なく分子レベルで計測できる新たなオペランド計測技術を、次世代化学材料評価技術研究組合(CEREBA)と共同で開発したと発表した。
多層積層型有機EL素子を高効率化、省エネルギー化、長寿命化するには、発光層までの各有機層における電荷の挙動を、他の有機層の電荷と分離して計測する必要がある。劣化の原因となる酸素や水の影響を防ぐ厳重な封止を解かずに評価することも求められる。そのため、産総研とCEREBAは和周波発生分光法(SFG分光法)の研究を進めてきた。
SFG分光法は、波長固定の可視光と波長可変の赤外光を試料に同時に発射し、出てくる和の周波数の光を検出することで、表面や固体内部の界面における分子の振動スペクトルを測定する手法だ。産総研とCEREBAは2012年の時点で、2重共鳴効果と電界誘起効果を利用したSFG分光法である「電界誘起2重共鳴SFG分光法」を発表している。
通常のSFG分光法で可視光の波長は変えられないが、電界誘起2重共鳴SFG分光法は可視光の波長を特定の有機物の吸収波長に合わられる。互いの波長が一致すると、その有機物だけが高エネルギー状態に移行する(2重共鳴)。そのため、電界誘起2重共鳴SFG分光法では他の有機層の影響を取り除き、特定の有機層からの信号だけを増強して捉えられる。
しかし、2重共鳴効果だけを利用した場合、有機層の吸収波長が互いに近いと、複数の有機層からの信号を同時に捉えてしまう。そこで、対象となる試料に電場を加え、加えた電場に応答した有機層からのSFGの信号を増強させる。つまり、加えた電場に応じてSFGの信号強度が変化するという電界誘起効果を活用する。
また、産総研とCEREBAは、レーザー光による素子の損傷をなくすため、SFG分光装置に改良を加えた。レーザーの強度を通常のSFG分光測定に比べ100分の1以下に下げても、分解能を損なわずに測定できるようにしたという。
産総研とCEREBAは今回、電界誘起2重共鳴SFG分光法に、時間分解という手法を組み合わせ、新しい評価解析技術を開発した。同技術では、レーザーに同期させたパルス電圧を有機EL素子にかけるタイミングを少しずつずらしながらSFG分光測定を行う。数十ナノ秒の精度で分子の変化を追跡し、多層積層型有機EL素子内部の電荷生成、電荷輸送、界面での電荷再結合挙動を分子レベルで計測できる。
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