多層積層型有機ELの電子の動きを分子レベルで計測:有機EL素子の高効率化などに貢献(2/2 ページ)
有機EL素子駆動時の内部の電荷の挙動を分子レベルで非破壊的に計測できる新たなオペランド計測技術を、産総研らが開発した。かつて開発した和周波発生分光法(SFG分光法)「電界誘起2重共鳴SFG分光法」と、時間分解という手法を組み合わせている。
電圧をかけて約1マイクロ秒後に発光
研究グループは開発技術を用い、典型的なりん光材料を用いた多層積層有機EL素子にパルス電圧をかけた際の初期時のSFGスペクトルの時間変化と、素子にかけたパルス電圧と素子からの発光強度の初期時の時間変化を調べた。
素子にパルス電圧(10V、パルス幅15マイクロ秒の矩形パルス)をかけた場合、0.1マイクロ秒でまず両方の電極に電荷が到達したが、有機層内部にはまだ入っていなかったという。
0.2マイクロ秒には、SFGスペクトルでは特徴的な2つのピークが出現した。1567cm-1の位置に現れるピークは、正孔輸送層に用いられるα−NPD分子の有機カチオン種(正電荷)への変化を示し、1497cm-1のピークはAlq3(アルミキノリン錯体)分子の有機アニオン種(負電荷)への生成を示す。この時点で正孔と電子両方が電荷輸送層内に入ったということだ。
電圧をかけてから約1マイクロ秒後には、素子からの発光が始まった。このことは発光層にまで電荷が移動し、発光層の内部で電荷の再結合が起こったことを示している。
産総研は今後、新規材料を用いた有機EL素子を、開発したオペランド計測技術で測定し、素子動作時や長時間駆動させた後における素子内部の情報を分子レベルで調べていく。これにより、有機EL素子の駆動機構や長寿命化に必要不可欠な電荷輸送メカニズム、輸送特性向上に必要な要因の抽出、駆動劣化メカニズムの分子レベルでの解明を目指すという。
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