ついに車載分野にも浸透し始めた中国製チップ:製品分解で探るアジアの新トレンド(20)(2/3 ページ)
ひと昔前まで、高品質なチップが要求される車載分野で中国製チップが採用されることは、まずなかった。しかし、今回カーナビゲーションを分解したところ、インフォテインメント系システムにおいては、そんな時代ではなくなっていることを実感したのである。
ゆとりのあるスペースデザイン
図2はマザーボードとコンピューティング基板の様子である。マザーボードのほぼ中央に金属シールドされたコンピューティング基板が搭載されている。大きさはほぼクレジットカードサイズである。
この基板上には、メインのプロセッサ、プロセッサの電力を最適化するための電源制御IC,DDR3メモリ、NANDフラッシュストレージ(32Gバイト)、オーディオCODEC、GNSS(GPS/GLONASS/Galileo/BeiDou(北斗)対応)レシーバーICなどが搭載されている。
本体の背面および内部の空洞には各種通信向けのアンテナ、レシーブ配線が存在する。しかし無理をして装着した様子はない。やはり内部に光ディスクなどがない分、ゆとりを持ったスペースデザインが成されているようだ。
マザーボード側にはオーディオを中心としたチップ群が搭載される。システムマイコン(ARM系)、オーディオ用のサウンドプロセッサ、オーディオパワーアンプなどである。オーディオ部の多くは欧米の老舗半導体メーカーのチップが使われる。オーディオには定評の高いアンプチップ、FM/AMチューナーなども評価の高いチップを採用し、オーディオ部分に手抜きはないと言わんばかりの顔ぶれになっている。
「big.LITTLE」を採用するRockchipの最新プロセッサを搭載
図3は、コンピューティング基板のメインチップを開封した様子である。チップは中国Rockchipの最新プロセッサの1つ「PX5」とその電源制御を行う「RK808」を骨格として構成されている。
メインプロセッサPX5は64ビットのARM CPUコアを8コア搭載し、GPUはImagination Technologiesの「G6110」さらにH.265/H.264デコーダーなどを備えている。電源制御チップは12個ものLDOやDC-DCコンバーターを持ち、プロセッサに最適な電源を供給することで電力を最小化する仕組みが成されている。
Rockchipのプロセッサ「PXシリーズ」は、「PX2」「PX3」と、新世代になるにつれてカウントアップされるものになっており、PX5は、名前から分かる通り現時点では最新版という位置付けになっている。PXシリーズはRockchipの「RK3XXXXシリーズ」(タブレットやSTBなどのガジェットに使用されるもの)とは別扱いとなっている。同社のWebサイトの製品紹介では、両シリーズの違いとして、PXシリーズは、ADAS(先進運転支援システム)対応であることや、パッケージのピンピッチ(端子幅)も大きめの数字になっていることが紹介されている。つまり、車載向けのデバイスという位置付けであることが分かる。
PX5は今回報告したTB706だけでなく、中国の多くのカーナビに採用されている。ネットなどではロシア語の情報も多く、ロシアや東欧などにも広く販売されているようだ。
プロセッサは、28nmプロセステクノロジーを用いたほぼ最新のものである。図3の右下には、チップ開封を行い、配線層を除去したCPU部の様子を一部掲載した。CPUはARMコアが8コア搭載されていて、ARMが提唱する「big.LITTLE」アーキテクチャが採用されている。上部は高速動作に利用される「big」と呼ばれる4コア、その下部には低消費電力向けの「LITTLE」と呼ばれる4コアが配置されていて、アプリケーションに応じて高速CPUと低消費電力CPUが使い分けられる。
スマートフォンに続き、カーナビの領域にも中国の先端プロセッサが徐々に入り込んでいる。しかも多くの国や地域で安価で売られているのだ(弊社ではこの先も複数台購入し調査をしていく予定である)。
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