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パルス光を照射、巨大な伝搬スピン波を発生振幅はこれまでの10倍以上(1/2 ページ)

高輝度光科学研究センター(JASRI)らの研究グループは、磁性合金薄膜にパルス光を照射することで、これまでにない巨大な磁気の波(スピン波)が生成されることを発見した。

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光−磁気スイッチング素子や高速磁気通信の実用化に期待

 高輝度光科学研究センター(JASRI)や大阪大学、東北大学、日本大学および、愛知医科大学らの研究グループは2017年9月、磁性合金薄膜にパルス光を照射することで、これまでにない巨大な磁気の波(スピン波)が生成されることを発見したと発表した。今回の成果は、スピン波を利用した光−磁気スイッチング素子や高速磁気通信の実用化につながる可能性が高いという。

 近年は、スピンの自由度を活用する電子工学「スピントロニクス」の分野が注目されている。JASRIなどの研究グループは今回、東北大学のグループが作製した合金組成などが異なる数種類のGd-Fe-Co磁性合金薄膜を実験に用いた。この試料に、約0.1ピコ秒で発生するレーザーパルスを照射し、その時の高速スピン運動(スピンの向きの変化)を、大型放射光施設SPring-8の軟X線固体分光ビームラインや光電子顕微鏡などを用いて調べた。


スピン波の概念図 出典:JASRI他

 Gd-Fe-Co合金は、Gd元素と、Fe/Co元素のスピンが逆向きになる「フェリ磁性体」と呼ばれる磁性体である。その組成に応じてGdサイトとFeCoサイトの磁気的な運動量が釣り合う固有の温度(角運動量補償温度)を持つという。パルスレーザー光を照射したときに、Gd-Fe-Co薄膜の温度が、角運動量補償温度をまたいで変化するか否かで、スピンの反転が異なる挙動を示す。


左は一般的な磁性体(フェロ磁性体)、右はGd-Fe-Co合金などフェリ磁性体のスピン(磁石)配向の概念図 出典:JASRI他

パルスレーザー光が照射された時に予想されるGd-Fe-Co薄膜のスピン運動の概念図 出典:JASRI他

 角運動量補償温度が室温より高く、スムーズな磁石反転が期待される組成(Gd含有量が26%)では、既に知られている単純な磁石反転を観測することができた。これに対し、角運動量補償温度が低い組成条件(Gd含有量が22%)の場合、スピンが同心円状に整列しながら半径方向に沿って変調するという、奇妙な振る舞いとなった。これは、「緩和が単純に間延びしたスピン反転が起こる」との当初予想に反した結果だという。


Gd-Fe-Co薄膜にレーザーパルス光を照射した直後とその後のスピンの向きを示す図 出典:JASRI他

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