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開発が進むテラヘルツ波無線用トランジスタさらなる大容量通信の実現に向け

NICT(情報通信研究機構)は、テラヘルツ波無線通信向け電子デバイスを開発中だ。ミリ波よりもさらに周波数が高いテラヘルツ波は、より高速、大容量の無線通信を実現できる可能性があるが、これまで、信号を扱うための技術開発があまり進んでいなかった。

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活用が進んでいないテラヘルツ波

 5G(第5世代移動通信)よりもっと先の移動通信規格では、テラヘルツ波の活用が進むかもしれない。NICT(情報通信研究機構)は、同機関が手掛けるさまざまな分野の研究成果を披露する「NICTオープンハウス2017」(2017年11月9〜10日、NICT本部[東京都小金井市])で、テラヘルツ波無線通信用電子デバイスの開発成果を展示した。

 これまで、テラヘルツ波(300G〜3THz帯くらいの領域)の活用はほとんど進んでこなかった。電波と光の両方の性質を併せ持つテラヘルツ波について、NICT 未来ICT研究所で上席研究員を務める笠松章史氏は、「電波と光の中間なので、扱いにくいという面は確かにあり、テラヘルツ波の信号を扱うための技術も現時点では発達していない」と説明する。

 一方で、“中間”ならではの面白い特長もあると同氏は述べる。例えば、携帯電話向けの高速、大容量通信だ。5Gでは、広い帯域幅を取れるミリ波の活用が焦点の1つになっているが、それよりも高い周波数帯のテラヘルツ波では、ミリ波よりもさらに広い帯域幅を確保することができる。モバイルネットワークに利用できれば、高速で大容量の通信を実現できる可能性がある。もう1つは、物体の観察だ。例えば1THzの波長はおよそ0.3mmくらいなので、1mmよりも小さい物質を観察できるようになる。

 NICTは、テラヘルツ波の信号を適切に扱えるトランジスタの開発を進めている。これまでに、InP(インジウム・リン)やGaN(窒化ガリウム)などを用いたHEMT(高電子移動度トランジスタ)を試作し、動作速度や遮断周波数(fT)、最大発振周波数(fmax)といった特性の向上を図ってきた。


「NICTオープンハウス2017」で展示したGaN HEMTとInP HEMT

 InPやGaNの他、InSb(インジウム・アンチモン)を材料としたHEMTも開発している。バンドギャップは狭いものの高い電子移動度を持つInSbで作製したHEMTは、0.5V以下で駆動し、消費電力が低い点が特長だ。NICTが試作したInSb HEMTは、駆動電圧が0.5V、fTが316GHz、fmaxが164GHzだった。「現在は、InPを用いたトランジスタが最も高速で動くといわれていて、InP HEMTでは、1000GHzを超えるfTも達成している。だが、高い電圧をかけられないので壊れやすいという課題もある。InSbは、InP HEMTの高速動作を超えられるのではないかと期待されている材料だ」(笠松氏)


InSb HEMTの断面構造(左)と、断面の電子顕微鏡写真(クリックで拡大)

 笠松氏によると、InSb HEMTでは、各層に用いる材料の組み合わせの微調整や、層と層の境目をより平たんに作り込むことといった課題があるという。ただ、「5Gの次、“6G”以降では、活用される周波数帯がテラヘルツに近づいていくと考えている」と述べ、将来のモバイルネットワークでテラヘルツ波を活用できるよう、デバイスの開発も進める必要があると語った。

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