実用化目前! 電池レスの無線キーボード:FRAMが動作を安定化
富士通セミコンダクターは展示会「Embedded Technology 2017(ET2017)/IoT Technology 2017」(会期:2017年11月15〜17日)で、電池を搭載しない無線キーボードのデモを公開している。
UHF帯RFIDとFRAMの組み合わせで
配線がなく、バッテリーも搭載しないキーボードが2018年に発売されるかもしれない――。
富士通セミコンダクターは2017年11月15日から17日までの会期で開催されている展示会「Embedded Technology 2017(ET2017)/IoT Technology 2017」(会場:パシフィコ横浜)で、UHF帯による無線給電技術を活用したバッテリーレスでかつ、ワイヤレスのキーボードやリモコン、電子ペーパータグの展示を実施している。
キーボードは、Bluetoothなどの2.4GHz帯無線を用いたワイヤレスキーボードが普及している。しかし、ワイヤレスキーボードの多くは、乾電池を電源とし、一定期間で電池を交換する必要がある。
これに対し、富士通セミコンダクターがデモンストレーションを公開したワイヤレスキーボードは、UHF帯のRFID技術をベースにした無線給電技術を用い、電力もワイヤレスで供給し“バッテリーレス”を実現。ワイヤレスキーボードながら電池交換や電池充電の手間がなくなる。
バッテリーレス無線キーボードのデモ。写真奥、青色の矢印で示した部分がタブレットPCと接続された給電端末。キーボードに受電用モジュール(赤色の矢印)を取り付け、受電している。キーボードの信号もUHF帯RFIDを介して行っている
UHF帯のRFIDを使用した無線給電技術自体は、珍しいものではなく、公開したデモシステムも「市販のRFIDリーダーライターを使用している」(同社)という。一方で、富士通セミコンダクターは「UHF帯の無線給電を使用したバッテリーレスキーボードは、これが世界初」と主張する。なぜ、今まで、バッテリーレスのキーボードは実現されてこなかったのだろうか――。
「バッテリーレスキーボードを実用レベルで実現するには、FRAM(強誘電体メモリ)が不可欠なため」(同社)とその理由を説明する。
「UHF帯の無線給電は、給電側と受電側の距離が最大1.5m程度離れても電力を伝送できる。しかし、その給電、無線通信は不安定であり、常にキーボードの動作に必要な電力を供給し続けることは困難。動作に必要な電力が供給できないこともあり、その度にキーを押し直しすれば、キーボードとして機能しない。そこで、低消費電力で、高速書き換え、高書き換え耐性を誇り、不揮発であるFRAMに入力したキーの情報を格納することで、キーボードとしての動作を安定化できる」とする。
公開したデモは、給電側から500mWの電力を出力し、給電側から15cm程度離れたキーボード側で50〜100mWの電力を受電しキーボードを動作させた。「展示会場は、電波が多く飛び、無線給電には劣悪な環境。一般的な環境では、50〜60cm程度離れても、使用できる」という。富士通セミコンダクターでは既に、キーボードメーカーと共同で、UHF帯無線給電技術とFRAMを組み合わせたバッテリーレスキーボードの開発を実施しているとし、「早ければ2018年中にも製品化される見込み」という。
さらに、バッテリーレスのリモコンや、バッテリーレスの電子ペーパータグの開発を進めており、キーボード同様に実用化できるメドがつきつつあるという。
なお、UHF帯による無線給電技術を活用したバッテリーレスキーボード/リモコンは、同展示会の優秀出展物を表彰する「ET/IoT Technologyアワード」でもIoT Technology優秀賞を受賞している(関連記事:これを見逃すな!「ET/IoTアワード」受賞社決定(MONOist))。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ワイヤレス給電システム、産業機器向けに拡大
TDKは、「TECHNO-FRONTIER 2017」で、無人搬送車(AGV)やロボットハンドなどの用途を視野に入れた産業機器向けワイヤレス給電システムの参考展示を行った。 - 新型ベンツに無線充電機能、量産PHEVでは初
2017年に発売される予定のメルセデス・ベンツのプラグインハイブリッド車(PHEV)「S5501e」にワイヤレス充電機能が搭載されるという。Qualcomm(クアルコム)の技術が採用されるようだ。 - 不揮発メモリ新時代(後編)
現在のDRAMやNAND型フラッシュメモリの用途に向けた次世代不揮発メモリの候補は4種類ある。FeRAM、MRAM、PRAM、ReRAMだ。ただし、どれか1つの不揮発メモリで全用途に対応することは難しそうだ。これはどの不揮発メモリにも何らかの欠点が存在するからだ。後編では不揮発メモリの用途や各不揮発メモリの性能向上策、技術動向について解説する。 - 3.4MHz動作時消費電流170μAの64Kb FRAM
富士通セミコンダクターは2016年4月、64KビットのFRAMとして消費電流を抑えた新製品「MB85RC64T」を発表した。 - ルネサスが0.2V対応電源ICを開発し、電波によるエネルギーハーベスティングシステムを実現
ルネサス エレクトロニクスは、電波エネルギーから電気エネルギーを取り出し、マイコンや温度センサーを駆動させるシステムを開発した。0.2Vという低電圧を昇圧する技術などの技術を盛り込んだ。 - “人も歩けば電波が飛ぶ”、無線タグ開発キット
モノワイヤレスは、無線タグ用の開発キット「TWE-LITE SWING(トワイライト・スウィング)」を発表した。振動を利用する環境発電(エナジーハーベスト)によって電波を送信できるので、電池を搭載する必要がない。工場や工事現場、病院などにおいて人の位置を検知する用途や、リモコンなどのUI(ユーザーインタフェース)といった用途に向ける。