ルネサスが0.2V対応電源ICを開発し、電波によるエネルギーハーベスティングシステムを実現:エネルギー技術 エネルギーハーベスティング
ルネサス エレクトロニクスは、電波エネルギーから電気エネルギーを取り出し、マイコンや温度センサーを駆動させるシステムを開発した。0.2Vという低電圧を昇圧する技術などの技術を盛り込んだ。
ルネサス エレクトロニクスは2013年5月、電波エネルギーを電力に変換するエネルギーハーベスティングシステム(環境発電)を開発し、5月8〜10日に開催される第16回組込みシステム開発技術展(ESEC2013:東京ビッグサイト)でデモを公開する。同システムを実現する要素技術として、0.2Vの低電圧から昇圧できる電源ICなどを開発した。
開発したエネルギーハーベスティングシステムは、2.4GHz帯の電波を250mWの出力で発する電波源(市販のソフトウェア無線機)から、60cm離れたところで電波を受け、その電波エネルギーを電力に変換し、マイコン、温度センサーを駆動させるシステム。主に2つの要素技術を開発したことでシステムを実現した。
まず、開発した要素技術は、微弱な交流(AC)電力を直流(DC)電力に変換する技術。電波エネルギーは、アンテナを受けると電力に変換されるが、その電力はACであり、マイコンなどを駆動するにはDCに変換する必要がある。加えて、250mW出力で電波源から発せられた電波エネルギーは、60cm離れたアンテナ(=無線通信用の一般的なアンテナ)には約60μW程度しか到達せず、極めて小さなAC電力を変換しなければならない。
ルネサスは、アナログ回路技術を駆使し、微弱なAC電力をDC電力に変換する整流器を作製し、60μWのAC電力を、約0.2V電圧で約10μWのDC電力に変換することに成功した。
次に、電波エネルギーから回収した0.2V、10μWという微小電力を、マイコンなどを駆動できる電圧にまで昇圧する技術が必要になる。これまで昇圧型DC-DCコンバータICは、0.5V程度から起動、昇圧できる製品は実用化されているが、「0.2Vから昇圧できる電源ICは聞いたことがない」(ルネサス担当者)という。
ルネサスは今回、0.2Vで起動できるスタートアップ回路と、数μWという低い自己消費電力に抑えた昇圧回路を備えた電源ICを開発。0.2V、10μWの入力を、変換効率約40%で1.8Vまで昇圧することを可能にした。さらに、同電源ICには、不安定な電力が入力された場合に電源をバックアップ用電池/キャパシタに切り替えたり、軽負荷時などに出力をバックアップ用電池/キャパシタの充電系統に切り替えたりする高効率な電源管理回路も搭載した。
電波エネルギーを電力に変換するシステムは、光や振動から発電するシステムに比べ得られる電力の電圧が低い上、直接に得られるのはDCに変換する必要のあるAC電力であり、技術的障壁が高い。しかし、電波は、熱や振動のように設置場所の制約が少なく、夜間、暗所でも使用できるほか、1つの電波源から複数箇所で発電できるなど高い利便性を備える。「開発したシステムは電波源までの距離が60cmと短いように思えるが、応用できる範囲は広いだろう。例えば、壁に埋め込んだ建物メンテナンス用センサー端末への給電といった応用は他の環境発電システムでは難しいだろう」という。「同じ無線で給電する一般的なワイヤレス給電と比べても、得られる電力は小さいながら、大幅に簡素なシステムで実現できる」とする。
ESEC2013では、開発した電源ICの利点を生かし、熱電素子からの微小電力(0.2V)を1.8Vまで昇圧するデモも公開する。「0.2Vからの昇圧が行えるため、これまで電圧を得るために大きくなっていた発電素子を小型化することも可能になる」とし、電波だけでなく、熱や振動、光などあらゆる環境発電システムへの展開も行う。
開発した電源ICの製品化については「すぐに製品化できる技術水準にあるが、今のところ時期は未定。市場の反応が良ければ、早期に製品化する」としている。
第16回 組込みシステム開発技術展(ESEC2013)
会期 | 2013年5月8日(水)〜10日(金) |
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時間 | 10:00〜18:00(10日(金)のみ17:00に終了) |
会場 | 東京ビッグサイト |
ルネサス・ブースNo. | 西 12-77 |
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