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至宝の人工知能 〜問題に寄り添い、最適解をそっと教えてくれるOver the AI ―― AIの向こう側に(17)(2/8 ページ)

先人たちにより開発され、磨かれてきた「至宝の最適化アルゴリズム」。本当はこれを軽々しく「AI」とは呼びたくな……い……という気持ちをぐっとこらえ、AI技術として解説します。「試験前の一夜漬け」「雪山遭難」「井戸堀り」の例を使って、説明していきます。繰り返しますが、最適化アルゴリズムを軽々しく「AI」という言葉で片付けたくはないんですよ、本当は。

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先人たちが築き上げた「至宝の最適化アルゴリズム」

 こんにちは、江端智一です。今回は、「最適化アルゴリズム」についてお話致します。

 また、毎度のことですが、「『最適化アルゴリズム』が"AI技術”なのかどうか」については、今回も『江端AIドクトリン』に基づいて私が ―― と言いたいところなのですが、実は、今回ばかりはどうしても"AI技術"と呼びたくないのです。

 ―― 先人たちが築き上げてきた「至宝の最適化アルゴリズム」を、軽々しく「AI技術」など呼んで欲しくない

という思い入れが、私にはあるからです。

 奥村先生の「C言語による最新アルゴリズム辞典」(奥村晴彦、1991年 技術評論社)は、今なお、私が、オフィス(研究所)の中を20mも歩けば、誰かのデスクの上に1冊は発見できるくらいの名著です。

 大学入試で使うような数式の方程式なんぞ使わなくても、「最適なアルゴリズムを使えば、コンピュータの力を使って解が得られる」ということを、魂のレベルで教えてくれた本で、「私のバイブル」といっても過言ではありません(今でも使っています)。

 が、まあ、私に"最適化アルゴリズム"に思い入れがあったとしても、このままでは連載を進められないので、"最適化アルゴリズム"を"AI技術"と見なすことにします(不本意ですが)。

第3次AIブームをけん引する「強化学習」や「深層学習」

 今回の第3次AIブームにおきましては、強化学習や深層学習が、そのブームをけん引しています。私は、その理由の1つに「神秘性」があると思っています。

 私は学生のころ、逆伝搬学習の効率の悪さに(文字通り)『地獄を見た』のですが、深層学習(ディープラーニング)は、この問題を改善して、今やいろいろな分野でニューラルネットワークを使えるようにした、という点において革命的だったと言えます。

 また、強化学習は、「結果」だけを使って、そのオペレーション全体を再評価するという方式を使って、「何も教えなくても、放っておけば、勝手に学習していく」というプロセスが、世間の人々の度肝を抜きました。

 その度肝を抜かせた映像の1つがこちらの「ブロック崩し」のゲーム映像です。

強化学習で、コンピュータに教える知識は、ゲームオーバーになった時の得点のみで、ジョイスティックを「どのように動かせば良いのか」は一切教えません。コンピュータは、「良い得点」を取った時の動かし方が ―― その理由は知らんが ―― とにかく「良い動かし方」と評価された動きを学習するだけです。

 これは、「新人の指導を押しつけられた指導員」にとって、夢の具現化と言えます。

 なぜなら、強化学習の方法を、新人教育に当てはめれば、「馬鹿野郎!」と「よくやった!」の2フレーズを使うだけで指導ができるわけですから、こんなに楽チンな方法はありません。

 しかし、この職人気質(かたぎ)の手法は、現代のエンジニア教育においては、完全に否定されております。あまりにも効率が悪過ぎるからです。

 ニューラルネットワークが、解決したい問題に対して適切な構成を込めているかどうかは、運とセンスにかかっており、しかも超高速な計算デバイス(GPUなど)がないと、全く使いものにならない、という特徴があります。

 また、ゲームを使った強化学習による学習プロセスの映像では、強化学習が簡単に完了しているかのように見えますが、実際には、膨大な回数のゲームを続けています。仮に数百、数千回ものゲームをやらせ続けたら、1回1分の時間がかかるとして、5000回で83時間、約10営業日かかることになります)。

 強化学習とは ―― もし、指導員が新人にゲームの攻略法を教えるというカリキュラム(どんなカリキュラムだ)があったと仮定した時、「ゲームのルールは教えん。ゲームの操作方法も教えん。とにかく、表示される点数を高くする方法を、自分で見つけ出せ」といって、新人に、2週間の時間を与えて、ひたすら5000回ゲームを繰り返しさせる ―― そういう学習方法なのです。

 このケースなら、指導員が、たった一言「ボールに追従してバーを動かせ」とだけ指導すれば、このカリキュラムは完了です(所要時間5秒)。

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