検索
連載

変わる自動車業界、電子化の加速で競争は新たなステージへIHSアナリスト「未来展望」(7)(2/3 ページ)

ADAS(先進運転支援システム)や自動運転といったトレンドにより、自動車に搭載される半導体は増加の一途をたどるばかりだ。これは同時に、新規プレイヤーの参入や、自動車産業の構造の変化などをもたらしている。自動車業界での競争は今、どう変わりつつあるのか。

Share
Tweet
LINE
Hatena

既存メーカーの動き

 自動車用半導体業界の現在の状況は、旧Freescale Semiconductorを買収したNXPが首位、Infineonが2位、そしてルネサスが3位であり、これらが既存の大手メーカーである。これらのメーカーは、従来の制御領域(走る・止まる・曲がる)向けにマイコン、アナログ半導体、パワー半導体を中心に供給してきた。

 現在、既存メーカーは、この従来の領域を中心に、情報&通信に向けた対応を推進している。例えば、ルネサスは、独自CPUを用いたフラッシュ内蔵マイコンで他社に先行し、アナログ専業の米Intersilの買収によってモーター制御系の強化に努め、さらには自動運転実現のプラットフォームと独自のシステムLSIを供給している。Infineonは、IGBTやSiCなどアナログ系で無類の強さを誇り、自動運転の実現に向けて必要とされるLIDAR(ライダー)事業の強化を推進している。

新興勢力の動き

 一方の新興勢力は、自動運転の加速に伴い、新領域である情報&通信の対応に向けて、半導体仕様に新たなアーキテクチャを持ち込み、勝負している。従来は、マイコンなどCPUの処理能力を高めたシングルタスクでのアーキテクチャで製品を開発しているのに対し、新興勢力はメモリを多用した並列処理をベースにした新たなアーキテクチャで勝負を仕掛けている。現状では、この並列処理のアーキテクチャを採用した画像処理の技術を、自動車向けにうまく応用しているという印象を受ける。

 加えて、「クラウドからエンドまでの全領域を垂直統合し、プラットフォーム化する」という意図が見えるのも、新興勢力に共通する特徴だ。例えばIntelは、もともと強みを持つ分野であるサーバと通信に加え、持っていなかったセンシング分野をMobileyeの買収によって補った。

 QualcommによるNXP買収も、Intelと同様の戦略だといえる。ライダーメーカーなどセット側の買収によって、機器メーカーとの協業スキームを構築しようとする動きも活発だ。新興勢力がクラウドからエンドまでの全領域を統合する取り組みを推進しているのに対して、既存メーカーも、各社の従来の領域である制御を中心にビジネス拡大を図っている。


画像はイメージです

 新興勢力が自動車市場に参入する狙いは、自動車用半導体を提供する部品メーカーとしての立場ではないだろう。クルマを“情報端末”として位置付け、そこから得られる膨大なデータを活用することで新たなビジネスを創造し、現状の問題を解決していくことである。

 新興勢力にとって、クルマは、スマホやIoT機器の端末と同様に、クラウドサーバに接続する端末にすぎない。ただ、クルマは情報量で他の情報端末を圧倒する。それを制御する半導体を開発すれば、最先端のコンピューティング技術を得ることになる。そのため新領域である情報&通信に向けた開発を加速しているのだろう。

 一方で、既存メーカー側から見れば、情報&通信を新規参入のプレイヤーに押さえられたとしても、自動車用半導体市場は安泰な市場といえる。それは、自動運転化されても、従来の領域である“走る・止まる・曲がる”の分野において半導体の需要がなくなるわけではないからだ。また、自動運転の実現には、クルマの外部と内部の情報を把握するセンサーが欠かせない。このセンサー周りでマイコン、アナログ半導体の伸びが見込めるのである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る