儲からない人工知能 〜AIの費用対効果の“落とし穴”:Over the AI ―― AIの向こう側に(18)(8/9 ページ)
AI技術に対する期待や報道の過熱が増す中、「抜け落ちている議論」があります。それが、AIの費用対効果です。政府にも少しは真剣に考えてほしいのですよ。例えば「荷物を倉庫に入れておいて」と人間に頼むコスト。そして、AI技術を搭載したロボットが「荷物を倉庫に入れておく」という指示を理解し、完璧にやり遂げるまでに掛かるトータルのコスト。一度でも本気で議論したことがありますか?
費用対効果の検討、ちゃんとやってるんですよね?
あらためて、「人工知能によって仕事を奪われる」という主張をしている方々に、本気で伺いたいのです。
あんたたち、ちゃんとそれぞれのユースケースを描いた上で、現状のAI技術の能力を勘案して、その上で、AI技術に対する投資コストや、AIアプリ/サービスの費用対効果の計算を、当然にやっているんだよな?
―― と。
私が知る限り、上記で私が検討した程度の、すぐにできるような簡単な試算すら、今まで一度も見たことがないのです(本当)。
私の感じでは「この仕事は、いずれAIで代替できそう」みたいな、極めて曖昧で主観的で、テキトーなことを言っているとしか思えず、特に、AI技術の導入コストに基づく費用対効果は、最初から完全に無視しているとしか思えないのです。
少しは、真面目に考えろ ―― と、私は言いたい。
(1)「あ、その荷物、倉庫に入れておいて」と人間に頼むコスト
(2)「あ、その荷物、倉庫に入れておいて」とAI搭載ロボットに頼むために、実現しなければならない、
(a)ロボットの筐体と、
(b)経路探索マップと、
(c)障害物回避プログラムと、
(d)荷物を持ち上げる可動部のアクチュエータと、
(e)無線通信を安定して行う基地局の設置と、
(f)ロボットに給電(または蓄電する)デバイス開発と……(まだまだ、いくらでも書けるけど)、
それらのトータルコスト
これら(1)(2)の両者の比較を、ちゃんとやれ、と。
現時点では、そのコスト差は明らかですが、これが10年後、20年後にどうなる、ということを、少しは真剣に考えてから、「人工知能によって仕事を奪われる」のプロセスを、きちんとしたマイルストーン付きで、数値を用いてロジカルに主張しろ ―― と、私は申し上げているのです。
そして、私が政府や企業にお願いしたいことは、
『AI技術に対する投資は、その技術の内容を、自分の頭できちんと理解した上で、適正な金額を、適正な期間、コンスタントに行って欲しい』
ということであり ―― つまるところ
『AIバブル(崩壊)に、再度、この私(江端)を巻き込むな』*)
という、この一言に付きるわけです。
*)言うまでもなく、私は、前回の第2次AIバブルの開始から崩壊までのループに飲み込まれた"孤独の観測者"です(アニメ「STEINS;GATE」オープニング曲「Hacking to the Gate」風)
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