Intelの元社長、サーバ向けArm SoCで再始動:Intelの牙城を切り崩せるか(2/2 ページ)
2015年にIntelを退任した、元プレジデントのRenee James氏が、Ampere ComputingのCEOとして、データセンター向けサーバ向けArm SoC(System on Chip)を発表した。データセンター向けサーバ市場は現在、Intelの独占状態だ。
「Armv8-A」のアーキテクチャライセンスが鍵か
今回Ampere Computingが発表したSoCの特長としては、「Armv8」に基づく64ビットの32コアで、最大動作周波数が3.3GHz、125Wの低消費電力、ソケット当たりのメモリ容量が1テラバイト、PCIe(PCI Express) 3.0対応のレーン数が42などが挙げられる。Ampere Computingは、「今回発表したX-Gene 3は、競合他社のSoCと比べて、メモリ容量と帯域幅を33%高められる」と主張する。
Ampere Computingは、もともとAMCCが取得していた、「Armv8-A」のアーキテクチャライセンスによるメリットを享受できると確信しているようだ。Ampere Computingはこのライセンスについて、「半導体開発のカスタマイズを推進していく上で、重要な鍵になる」とみている。
米国の調査会社IDCでコンピューティング半導体担当リサーチバイスプレジデントを務めるShane Rau氏は、EE Timesのインタビューに対し、「アーキテクチャライセンスがあれば、長期的に設計上の選択肢が広がり、差異化を実現できるようになる」と述べている。
同氏は、「例えば、サーバ向けプロセッサメーカーとして、市場において平均販売価格(ASP)と利益の確保をめぐって真剣に競争を繰り広げていくためには、自らのターゲットとする顧客や市場、設計などを選択して、差別化を実現可能な価格や性能、電力、機能などを組み合わせることにより、長期にわたり差別化を継続していく必要がある。このようなことは、プロセッサライセンスでは不可能だが、アーキテクチャライセンスでは全てを実現できるのではないか」と付け加えた。
だが、CaviumやHuawei(HiSiliconの親会社)、Broadcom、Qualcommなど、Armのアーキテクチャライセンスを保有しているメーカーは他にもある。Ampere Computingがどれほどの優位性を確保することができるのかは不明だ。
Ampere ComputingのSankaran氏は、「市場では現在、x86の代替となる命令セットアーキテクチャの登場が待ち望まれている」と述べる。
しかし、本当にそうだろうか。Intelが、サーバ向けSoC市場でいまだに優勢を維持しているということは、Armベースのサーバ向けプロセッサに対する需要がそれほどでもないということを示しているのではないだろうか。
IDCのRau氏は、「これまで、Armベースのサーバ向けプロセッサを手掛けるメーカー各社の取り組みの妨げとなってきた要因として挙げられるのが、ハードウェア/ソフトウェアエコシステムやプロセッサ設計が不十分だったために、x86サーバ向けプロセッサメーカー各社との間で十分に競争できるような性能を達成できなかったという点だ」と指摘する。
しかしRau氏は、「機器メーカーやクラウドサービスプロバイダー、OSベンダー、アプリケーションメーカーなどのArmエコシステムは、十分に優れたデータセンターシステムを構築することができる」と主張している。
また同氏は、プロセッサ設計について問われると、「Ampere Computingの設計については、技術的なメリットに関する詳細を挙げることができない。しかし、Ampere ComputingやQualcomm、Caviumなどの、最新世代のサーバ向けプロセッサ設計には、旧世代にはない特長がある。例えば、より高性能なコアを数多く搭載している、キャッシュの容量が多い、といった具合だ。
Rau氏は、Renée James氏の役割は、大手の潜在顧客との関係を築くことに尽きるとみている。Gwenapp氏は、懐疑的な見方をしている。「Ampere Computingが成功するには、旧AMCCのX-Gene 3あるいは、次の製品で、クラウドサーバ市場に大きな風穴を開ける必要がある」(Gwenapp氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 北米ベンチャーへの投資、失敗した日本企業の“共通項”とは
新規事業開拓のために、これまで多くの日本企業がシリコンバレーのベンチャー企業と、投資を含む戦略的提携をしてきた。だが、これまで失敗した企業が多かったのも事実だ。失敗の要因を探ると、幾つかの共通点が見えてくる。 - 中国の半導体政策は「無謀」、各国の警戒も強まる
半導体産業の強化に注力する中国だが、目標の到達には計画以上の時間が必要なようだ。資金力をものにM&Aを進めようとする姿勢に対し、警戒を強める国もある。【訂正】 - 2017年Q2の半導体売上高、SamsungがIntelを抜く
2017年第2四半期の半導体売上高において、Samsung ElectronicsがIntelを抜いた。メモリ市場が好調だったことが主な要因だ。 - Intelを取り囲む中国チップ群、半導体“地産地消”の新たな形
中国製の2つの超小型PCを分解して見えてきたのは、Intelプロセッサを取り囲むように配置されている中国メーカーのチップだった。Intelチップを中心に構成される「インテルファミリー」では今、中国勢の台頭が目立つようになっている。 - Intelが10nmプロセスの詳細を明らかに
Intelは2017年に10nmチップ製造を開始する予定だ。さらに、22nmの低電力FinFET(FinFET low power、以下22nm FFL)プロセスも発表した。GLOBALFOUNDRIESなどが手掛けるFD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレーター)に真っ向から挑み、ファウンドリービジネスで競い合う。 - エッジコンピューティング、低電力でAI実現
AI(人工知能)技術をベースとしたエッジコンピューティングを次の成長ドライバーと位置付けるLattice Semiconductor。フォーカスする分野は消費電力が1W以下で、処理性能は1テラOPS(Operations Per Second)までのアプリケーションだ。