微細化の減速、補うには新アーキテクチャに期待:DesignCon 2018で専門家が議論
「DesignCon 2018」で、IntelやArm、AMDの幹部らが、半導体プロセスの微細化などをテーマにパネルディスカッションを行った。微細化のスピードの減速を補うには、新しいコンピュータ/メモリアーキテクチャに期待したいと述べる。
微細化に伴うコスト増に苦しむ大手
米国カリフォルニア州サンタクララで2017年1月30日〜2月1日(現地時間)、電子機器設計技術の学会「DesignCon 2018」が開催された。参加したAMDやArm、Intelの技術者たちによると、半導体ロードマップはこの先、「ムーアの法則」が終息を迎えるかどうかに関係なく、大きな課題とチャンスの両方に向かって進んでいくようだ。
半導体プロセスの微細化に関して、パネリストたちの見解は真っ二つに分かれている。Armのフェロー兼技術担当ディレクターを務めるRob Aitken氏は、「少なくとも、プロセス技術世代間の移行速度は低下するだろう。16nmから10nmプロセスへの移行には3年間を要している他、デナード・スケーリング(Dennard Scaling)の電力優位性は、現在われわれが取り扱っているIC向けの90nmプロセスにおいて、既に終息を迎えている」と指摘する。
Intelのプラットフォームエンジニアリンググループ担当バイスプレジデントであり、サーバ開発グループ担当ディレクタを務めるRory McInerney氏は、「当社の研究は、現時点では5nmプロセスの実現に向けて社内ロードマップを進めている。その時までにムーアの法則が終息するとは思わない」と述べている。
また同氏は、「現在、最先端のプロセス技術に対する需要は、とどまるところを知らない。私の専門分野であるAI(人工知能)では、1つのICにできるだけたくさんの素子を搭載しようと、懸命な開発が進められているところだ」と付け加えた。
Intelのライバル企業であるAMDのコーポレートフェローで、プロダクト担当CTO(最高技術責任者)を兼任するJoe Macri氏は、「当社も、技術世代間の期間が長くなってきたと感じている。半導体チップや工場関連のコストがいずれも急激に増大し、当社の事業にも深刻な影響が及んでいる。各世代のプロセス技術において、アーキテクチャとパッケージングの両方の面で、さらなるイノベーションを生み出す必要がある」と述べている。
ArmのAitken氏は、「5nmプロセス以降に関しては、垂直ナノワイヤの採用が予測されることから、特に高速回路向けの一部のRTL設計に影響を及ぼすような変化が生じるとみられる」と述べる。
新しいアーキテクチャ
パネリストたちは、「現在台頭しているコンピュータ/メモリアーキテクチャは、減速しつつある微細化のスピードを、補うようになる」との見方で一致しているようだ。
Macri氏は、「メモリとストレージを融合させるような半導体チップやソフトウェアに関する取り組みによって、大きな変化が生じ、さらなる高速化を実現できるようになるだろう」と述べる。同氏は、AMDが2015年6月に発表した、GPUにメモリを積層して統合した「Fiji」の開発に携わった経歴を持つ。
ArmのAitken氏は、現在台頭しているさまざまな種類の最先端のパッケージング技術について取り上げ、「例えば、玩具向けのような極端なローエンド版は、安価な標準部品を基板に搭載し、50米セント程度で販売されている。ほぼ無法状態といえるのではないか」と述べる。
IntelのMcInerney氏は、「半導体エンジニアたちは、ネットワークやAI、メモリなどの分野で、新しいアーキテクチャが融合することにより、再生期を迎えることになる。アーキテクチャ設計に取り組む絶好のチャンスが到来し、イノベーションが急増するだろう」と述べる。
McInerney氏は、「AppleやAlibaba、Amazonなど、世界トップ10に入るハイパースケールデータセンターの事業者は大抵の場合、十分な資金を投じて専用の半導体開発チームを確保している。それぞれ独自に抱える問題の解決に向けて、取り組みを進めているだけでなく、新興の半導体メーカーの買収も進めているようだ」と述べている。
Aitken氏は、「最近、『Spectre』と『Meltdown』と呼ばれる脆弱性の問題が発表されたことから、安全性の高い設計を実現する新しいアーキテクチャの登場も待ち望まれている。こうした問題への対応方法や、今後発生が予測されているサイドチャネル攻撃の他、製品に向けた新しいセキュリティ対策などに関しては、新たな考え方が必要とされている」と述べる。
Macri氏は、MeltdownとSpectreによって悪用された技術について、「私が1980年代半ばに、半導体開発に着手した当時は、投機的実行機能によって高速化を実現した」と述べる。「投機的実行と、クラッカーの脅威に関しては、今後も変わることはないだろう。この先変わっていくのは、エンドツーエンドのセキュリティの必要性に対するわれわれの認識だ。誰もが、ガラス張りの家に住み、決して完璧にはなり得ない世界を受け入れて生活している状況にある」(同氏)
IntelのMcInerney氏と、米国の市場調査会社であるTECHnalysis Researchのアナリストで、今回イベントの司会を務めたBob O'Donnell氏は、Googleが最初に発見した欠陥を修正するための半導体業界の取り組みは、称賛に値すると語った。「今回の問題は、より優れたセキュリティツールの実現に向けたスローガンとなっている。タイミングや機能テスト用のツールは既に存在する。今必要なのは、基本的なビルディングブロックのレベルで脅威をテストすることができるツールだ。そのためには、数々のイノベーションが必要になるだろう」(McInerney氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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