BroadcomのQualcomm買収策にハッピーエンドは訪れない:NXP買収の完了次第で混乱も(1/2 ページ)
Qualcommに「最善かつ最終の買収提案」を行ったBroadcom。だが、この買収案に対しては、「株主にとっては利益があっても、長い目で見れば業界にはマイナス」という見方も多い。
業界にはマイナス
筆者は、BroadcomがQualcommに提案している1210億米ドル相当の買収について、金融アナリストと市場アナリストの意見を聞いた。彼らは、「短期的には最善の利益を株主にもたらすが、長期的に見ると業界にとってマイナスであり、Broadcomは“買収による成長モデル”をこの先も続けていけるとは思えない」という見解を示した。
ある株式アナリストは、匿名を条件に「この取引はBroadcomの株価にとってはプラスだと思うが、元エンジニアとしては残念に思う」と語った。
また、ある業界観測筋も、同じく匿名を条件に「Broadcomのビジネスモデルは株主にとってはプラスだが、業界にとってはマイナスだ」と述べている。
現Broadcomの前身である旧Avago Technologies(以下、Avago)は、買収を繰り返しながら、収益性の高い部門を残してコスト管理を徹底し、その他の部門は売却してきた。具体的には、旧AvagoがLSI社とBroadcomを買収したが、社名はBroadcomとし、その新生BroadcomがBrocade Communications Systemsを買収している。
“不要なもの”は売る
Qualcommは、Broadcomの元幹部が“金融工学”と呼ぶ、同社CEO(最高経営責任者)Hock Tan氏の経営戦略における次なる最大の目標だ。
Tan氏は、QualcommとTDKの合弁会社RF360 Holdings SingaporeとQualcommのArmベースのデータセンター向けSoC(System on Chip)「Centriq」を売却する方針とみられる。さらに、Qualcommの膨大な特許ポートフォリオや、旧LSI社と旧Broadcomの特許も売却するのではないかと思われる。同氏が旧CSRのBluetoothや旧Atheros CommunicationsのWi-Fi技術を売却するかどうかに関しては意見が分かれるところだ。
Broadcomが重要視しているのはもちろん、Qualcommの携帯電話ベースバンドの特許販売だ。それより規模は小さいが、Tan氏はモバイルアプリケーションプロセッサ事業も厳しく管理していく考えだと思われる。同氏はかつて、あるアナリストに、「私は山頂に座って、農家が畑を耕すのを見守っている。時期が来れば、降りて収穫する」と語ったという。
これは辛辣な表現だが、ビジネスは厳しいものだ。Tan氏のビジネスモデルの問題は、果実の種をまき水をやることを他人にさせ、収穫は自分がするというやり方だ。
半導体史上最大となる合併が成功したとしても、2〜3年もすれば、投資家は再び成長を渇望するようになる。これは、一種の中毒のようなものだ。山頂にいた王はやがて、丘の上の愚か者と見なされる。
特許係争から抜け出せないQualcomm
一方、Qualcommは、自らの思い上がりのツケが回ってきている。同社は、研究開発費を回収するために、数十年にわたってセルラー業界で最も高額な特許ロイヤリティーを課してきたといわれている。CDMA時代から、同社の要求は訴訟や規制措置を引き起こし、Appleや他の上顧客(Huaweiといわれている)との争いを招いている。
Qualcommの割高なロイヤリティーは、セルラー領域での技術優位性に値するものだ。だが、実際にどれくらい割高なのだろうか。研究費と特許使用料の詳細な比較分析を見てみたいところだが、今日の不透明な特許市場の例にもれず、後者については明かされていない。
Qualcommが巨額の投資を行っているのは明らかだが、Appleは、「Qualcommが課す特許使用料は、セルラー関連の特許を持つ他社の5倍に相当する」と主張している。
Appleのもう1つの競合であるSamsung Electronicsは、工場に260億米ドルという驚異的な額を投じた。同社の2017年の半導体売上高の4割に相当するという、途方もない規模の投資である。
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