IEEE 802.11ax対応の1チップIC、東芝が開発:誤差を補正し通信の干渉を回避
東芝は、次世代無線LAN「IEEE 802.11ax」ドラフト規格に対応した、アクセスポイント向け1チップICを開発した。
複数端末が同時に、高い品質で通信可能に
東芝は2018年2月、次世代無線LAN「IEEE 802.11ax」のドラフト規格に対応した、アクセスポイント向け1チップICを開発したと発表した。
IEEE 802.11axは、複数端末の同時通信を可能とするマルチユーザー伝送技術により、混雑した通信環境においても現行の無線LANに比べて4倍以上の高速通信が可能となる。これを実現するには回路の低雑音化や干渉を回避する技術が必要となる。
東芝は今回、2つの技術を開発した。1つは「雑音による誤差を補正する回路」技術である。誤差成分には振幅誤差と位相誤差があり、これまでの補正技術では、振幅誤差の周波数依存成分を補正することは難しかった。
新たに開発した補正技術は、振幅誤差と位相誤差を含む信号を受信したとき、意図的に同相と直交の軸を回転させる。これによって、誤差成分を位相誤差のみとし、簡便な回路で高い精度の補正を実現した。
もう1つは、「干渉源検出回路」技術である。無線LANで使用される周波数帯は、電子レンジの他、Bluetooth対応機器や監視カメラなど、さまざまな用途で用いられている。これらの機器から発せられる電波が、干渉の原因となっている。
そこで今回、電波の種類を判別する回路を搭載し、電子レンジなどの干渉源を速やかに判別。干渉源の少ない周波数を見つけて利用することで、高品質の無線通信を可能とした。
東芝は新たに開発した技術を用いて、4×4MIMO対応の1チップICを開発した。このICは、IEEE 802.11axに必要となる送受信特性を満たしているという。
なお、今回の研究成果は、米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された半導体集積回路技術の国際会議「ISSCC 2018」で、2018年2月14日に発表した。
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