私を「疾病者」にしたのは誰だ? 労働と病(やまい)の切っても切れない関係:世界を「数字」で回してみよう(49) 働き方改革(8)(1/10 ページ)
現代の社会において、労働と病(心身の)の関係は切っても切り離せません。会社組織には、「労働者」を「疾病を抱える労働者」へと変貌させる機能が備わっているのかと思うほどです。今回は、「労働者の疾病」に焦点を当ててシミュレーションを行ってみました。
「一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジ」として政府が進めようとしている「働き方改革」。しかし、第一線で働く現役世代にとっては、違和感や矛盾、意見が山ほどあるテーマではないでしょうか。今回は、なかなか本音では語りにくいこのテーマを、いつものごとく、計算とシミュレーションを使い倒して検証します。⇒連載バックナンバーはこちらから
先日、駅周辺の施設、利用者、交通などを調べることを目的としたフィールドリサーチを行うために、ある街に出かけてきました。
駅の利用客は少なく、駅に隣接したショッピングモールも、平日の午後はそれほど賑わってはおらず、子どもをつれた若い主婦、または、高齢者がいるだけの閑散とした状況でした。
その後、私は、その駅から1kmほどの所にある病院に徒歩で向かいました。誰もいない野原を1人で歩き、雑木林の間を抜け、少々不安な思いに駆られながらも、ようやく病院にたどりついて ―― 驚きました。
大きな病院の中は、たくさんの人間でごった返していたのです。
手作りベーカリーの店、パスタの専門店、有名なコーヒーのチェーン店が入っており、各受診窓口の椅子は何十人分も確保されていました。受付/会計フロアは、小学校の校庭のトラックよりも広く、建物全体が吹き抜けになっており、そこでは受診を終えた人たちが、ATMのような自動料金支払機で会計手続を行っていました。
さらに、病院のロータリーの方に回れば、10台を超えるタクシーが待機しており、付近の3つの駅だけでなく、羽田空港や成田空港との連絡バスが、10分間隔で頻繁に入ってきます。
駐車場の入出ゲートの監理をしているおじさんにお伺いしたところ、「収納できる自動車の台数は1000台を超え、常に満車状態。一日の利用者数は3000人を下らない」と、誇らしげに語ってくれました。
32の診療科、一般病床425床の大病院 ―― 国立がん研究センターです。
背広姿の男性や、外出着の女性がフロアを闊歩し、従来の病院のイメージ ―― 特に、"がん"のイメージ ―― と比べると、随分違うなと感じました*)。
*)病棟に入ったわけではなく、受付と会計を見学しただけの感想です。
今の日本で、平日の午後にこれだけの人間を集客する施設があるだろうか ―― と、会計フロアの中に入っているコーヒーショップで、報告書を作成しながら考えていました。
『……以上より、これからの都市デザインにおいては、交通の拠点に建設するものは、ショッピングモールでもマンションでもなく、病院となり、ホスピタル・セントリック・タウンのコンセプトが重視されるようになるであろう』てなことを、つらつらと書いていました。
病院から駅に戻る時には、さすがに徒歩はやめて、バスを利用したのですが、病院を離れると、もうそこには「何もない荒野が広がっている」という感じでした。
バスの中から風景を見つつ、私は頭の中で、駐車場のおじさんの言葉を何度も反すうしていました ―― 「私たちの2人に1人は、必ず"がん"になるんだよ」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.