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私を「疾病者」にしたのは誰だ? 労働と病(やまい)の切っても切れない関係世界を「数字」で回してみよう(49) 働き方改革(8)(10/10 ページ)

現代の社会において、労働と病(心身の)の関係は切っても切り離せません。会社組織には、「労働者」を「疾病を抱える労働者」へと変貌させる機能が備わっているのかと思うほどです。今回は、「労働者の疾病」に焦点を当ててシミュレーションを行ってみました。

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病的なまでの「スタンドアロン戦略」が、江端さんを病気にしたんですよ

後輩:「今回の、江端さんのシミュレーションで引用してきた『年齢別生産性』ですが、『後継者育成』も生産性の中に入っているのですか」

江端:「分からない。ただ、後継者育成によって反映される生産性は『教える側(シニア)』ではなくて、『教えられる側(ジュニア)』の方に加算されている様に思う」

後輩:「だったら、後継者育成という行為は、『自分の価値(生産性)を、他人(ジュニア)に、タダで手渡している』ということになりますね」

江端:「まあ、そういうことになるかもしれないなあ」

後輩:「だから江端さんは、『後輩の育成』に髪の毛ほどの熱意もない訳ですね」

江端:「そういう訳でもないんだけど、どうも、私が『後輩の育成』をすると、後輩の教育に良くないみたいで、会社もそのことを良く知っているみたいで……」

後輩:「どういうことですか?」

江端:"洗脳"

後輩:「……ああ、そうですね。江端さんって、"唯我独尊"、"自己救済"、"孤立無縁"で、"愛社精神絶無"ですからね」

江端:「とんでもない。私みたいな者でも拾ってくれたんだ。この会社には、日々『感謝の気持ち』で満ち溢れているぞ」

後輩:「でも『愛してはいない』」

江端:「……」

後輩:「ところで、江端さん。今回は、派手に体をぶっ壊したそうですね。"不眠"、"食欲不信"、"全身激痛"ですか」

江端:「うん」

後輩:「でも、江端さんがそうなったのは、会社のせいではありません。全て江端さん自身の自己責任です」

江端:「今、なんかすごいことを、さらっと言ったな」

後輩:「江端さん。私も、いろいろなところに情報源があるんですよ。なんでも『相当、怒り狂っていた』そうですね。(中略)。ご同情申し上げます」

江端:「相変わらず、嫌な人脈を持っているなぁ」

後輩:「江端さんの問題は、その『怒り狂っている』状況や原因を、第三者と共有できなかった点にあります」

江端:「というと?」

後輩:「江端さんのやり方である「スタンドアロン戦略」は、江端さんのように、1人でガンガン仕事を進められる人にとっては、費用対効果の高い優れた方法だと思います」

江端:「うん、確かに。この連載だって『1人で執筆して、1人でイラスト描いているからこそ、納期を守れる』と言えるしね」

後輩:「しかし、外部からの余計な雑音(例:本人に無許諾の締切付きの仕事)とかが入ってくると、その途端に予定が破綻し始めるでしょう? 『江端システム』は、ロバスト性に欠けるんですよ」

江端:「まあ……認める」

後輩:「それに、今回、江端さんが怒り狂っていた原因ですが、それって、別段、本気に怒るようなことじゃなかったんですよ」

江端:「はい?」

後輩:「その、原因となった"コト"、社内では有名なんです。江端さんは、そんな"コト"、真面目に取り合わずに、ガン無視していればよかったんですよ」

江端:「え? そうなの?」

後輩:「江端さんの、病的なまでの『スタンドアロン戦略』が、江端さん自身を病気にしてしまったんですよ。江端さんが、たった数パーセントでも、一般の社会人の持つ「非合理的なマインド」を ―― 江端さんは、そういうものが嫌いかもしれませんが ―― そういうものを持ちあわせていたら、江端さんは、病気にならずに済んだと思います」

江端:「えー? 悪いのって「私」?」

後輩:「他の人ならともかく、『うつ』を、『自殺』を、そして『働き方改革』に関する持論を、毎月、世間様に開示している江端さんに限って言えば――

 ―― 今回の一件、少しは「自罰的」に考えてもらいたいものです。



⇒「世界を「数字」で回してみよう」連載バックナンバー一覧



Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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