日系大手電機メーカー8社の今後を占う:大山聡の業界スコープ(6)(2/3 ページ)
日系各社は中長期的な戦略を立案する上でさまざまな課題を抱えている企業が多いように思う。経営陣と現場のコミュニケーションが十分に取れていないことが原因ではないか、と思われるフシが散見されるのだ。電機大手各社を例にとって、過去10年間の変遷を見ながら、各社がどのような経営を行ってきたのか。そして、今後の見通しはどうなのか、について考えてみたい。
17年度は全8社が黒字を計上したけれど……
2017年度の各社決算は、この10年間で初めて大手8社全社が黒字を計上した。特に日立製作所、ソニーの2社は過去最高益を更新するなどポジティブな内容だったが、手放しで喜べるわけではない。日立は事業規模の割には当期利益の水準が物足りないし、ソニーはこの10年間で黒字決算が4期だけ(6期は赤字決算)である。そもそも両社とも、優良企業の必要条件である「株主資本率50%以上」にはほど遠く、まだ満足できるレベルとは言えないのが現状なのだ。
IoT時代の到来に向けて、ITインフラ需要が旺盛な状況であるにも関わらず、その領域をメインとしているはずのNEC、富士通の見通しも物足りない。NECはこの10年間で1000億円を超える損失を2回計上しているが、1000億円超の当期利益は一度も計上していない。富士通はNECよりは元気があるものの、中核ではない事業の売却交渉が難航しており、具体的な中期計画の発表に至っていない。両社とも2017年度はIoT関連の投資が収益を圧迫した、とコメントしているが、この投資が今後プラスに働いてくれることを願うばかりだ。
東芝は債務超過状態を解消できたものの、唯一の収益源とも言うべきメモリ事業を連結から外す苦渋の選択を行った。「虎の子」の売却は本当に必要だったのか、連結したまま上場させる選択肢はなかったのか、といった声も聞こえてくる。
こうして総括してみると、各社にとってこの10年間は極めて厳しい期間であったことが伺える。リーマンショックのみならず、大震災や超円高などの困難にも見舞われたことを考えると、各社の経営陣に対して同情したくもなるが、冒頭で述べたように、この市況に対してどのような経営戦略で臨んだのか、理に叶った中期計画を立案できていたのか、筆者としては突っ込みを入れたい企業がある。
各社のこれまでと今後
まず、債務超過に陥った東芝とシャープについてだ。
シャープは、2009年度と2010年度にかろうじて黒字決算を計上しているが、この時点で価格競争が激化していた液晶事業と太陽電池事業に大がかりな投資を断行し、それが裏目に出た。判断が間違いだったことを百歩譲ったとしても、2015年度末に債務超過に陥るまでの間、効果的な対策を講じられなかった点は問題視されるべきだろう。最終的にはHon Hai Precision Industry(鴻海精密工業)による救済で復活できそうな見通しとなったが、郭台銘⽒や戴正呉⽒という強力なリーダーがいなかったら、今でも右往左往していた可能性がある。
東芝は、不正会計が明るみに出て経営体制が崩壊したこと、巨額を投じて買収したWestinghouse(ウェスティングハウス)をコントロールできなかったこと、この2点が大きかった。経営陣と現場のコミュニケーションが成立しなければ問題はここまで大きくなる、という悪い見本の典型で、同社の社会的信頼も大きく失墜した。今後は開き直った姿勢で信頼回復に努めるしかないが、収益の柱を失った状態での同社の立て直しには、今後も厳しい試練が待ち受けているように思われる。
同社の不正会計問題は業界を震撼(しんかん)させる出来事だったが、このような問題はどの大手企業にも多少なりとも存在するのではないだろうか。現場と意思の疎通が図れない経営陣が発表する中期経営計画など達成できるはずもなく、過去10年間の業績推移から、各社の中期経営計画がどれほど有効なものであったか、ある程度推測が可能なはずだ、と筆者はみている。
例えば三菱電機は2014年5月の時点で「2020年度までに売上5兆円以上、営業利益率8%以上」という経営目標を公表し、現在に至るまでこの目標を変更せずに着実な改善を積み重ねている。同社の経営陣と現場がどのように意思の疎通を図っているのか、筆者は寡聞にして知らないが、コミュニケーションが取れているからこその実績ではないか、とみることもできる。この状態が継続されるのであれば、同社の今後の見通しも比較的明るいのではないだろうか。
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