合理的な行動が待機児童問題を招く? 現代社会を映す負のループ:世界を「数字」で回してみよう(50) 働き方改革(9)(3/8 ページ)
今回のテーマは「子育て」、とりわけ、働き方と深く関わってくる、保育園の待機児童問題です。少し前に取り上げた「女性の活躍」と切っても切り離せず、かつ深刻を極めている問題なのですが、政府の対応がうまくいっておらず、また、実は“当事者意識”を持ちにくい問題となっていることが、数字から見えてきました。
現代社会を映す鏡
このように"待機児童問題"は、現在の社会を映す鏡そのものですが、さらに、その奥に控える、"保育所問題"に突っ込んでいくと、面倒くさく、解決が困難なものになっています。
まず、上記(1)は、「0歳児のコストが突出している」という問題です。これは人間という生物の本質的な問題点と言えます。なにしろ、『生まれたら、その場で立ち上がって、自力で授乳するために歩き出す』 ―― てなことは、人間の新生児には期待できません。
首が座っていないので、ちょっと移動させるだけでも注意が必要になりますし、授乳にも恐ろしく時間がかかる上に、胃の中にたまった空気・ガスが口から出るよう、背中をたたく(ゲップさせる)必要もあります。24時間いつでも泣き叫び続け、数時間放置するだけで、即、死に至ります。
このような「0歳児の保育」を、ワンフレーズで表現すれば、
―― 24時間、365日連続無休の爆発物処理班に所属しているようなもの
という感じです。
上記(2)のITリテラシー問題を知った時、私は心底ビックリしました。「手書き連絡帳」って何? いつの時代のお話? 今どきの新生児の保護者が、私より高齢者ってことはないよね?
ところが、嫁さんが言うには、この「手書き連絡帳」というのが、保育所や幼稚園の差別化を図る重要なサービスであるらしいのです。『○○ちゃんは、今日XXXをおいしそうに食べていました』『楽しそうに△△で遊んでいました』という、その手書きの一フレーズに大きな価値がある ―― と言われました。
私は、「保育所にWebカメラを設置して、保護者が深夜に10倍速で録画をレビューすればいいんじゃないの?」とか「定型フレーズをコピペして、必要なところだけ変更したフレーズを、メール送付すれば足るんじゃないの?」みたいな提案をしてみたのですが、嫁さんには、嫌な顔をされました。
つまり、職場のITによる合理化が叫ばれ、社員のITリテラシーを無視した強引なシステム導入が進められている現代社会にあって、「保育所」や「幼稚園」のように、子どもの育成プロセス中でも特に「新生児や幼児に関する分野のIT合理化は、理屈抜きで拒絶される」、という奇妙な状況が生じているようなのです*)。
*)もう一つの連載の「未来を占う人工知能 〜人類が生み出した至宝の測定ツール」で、似たようなことを書いた記憶があります。
これは、上記(3)のモンスターペアレンツ問題も含めて、"保育所問題"の被害者である保護者自身が、この問題を悪化させているという皮肉な状況になっているということです。
上記(4)の住民反対運動については、その是非はどうあれ、これを理解することは簡単です。「他人(の保護者や子ども)がどうなろうが、私の知ったことか」の一言で終わりです。
私たちは、自分たちの生活パターンを1ミリ足りとも変えたくありません。それは「地元のゴミ焼却処理場の建設問題」を出すまでもなく、学校や職場の「クラス替え/部署異動」すら忌避する私たちの日常を省みれば、明らかなことです(参考:著者のブログ)。
とまあ、このように、"待機児童"や"保育所"の問題点をピックアップするだけでも、それなりの記事になります ―― というか、ネットで調べれば、そんな記事ばかりです。
解決策を提案している記事もあります(少ないですが)が、残念ながら私には「現実性」が感じられませんでした。
ここで私のいう現実性とは、ひと言で言えば「ビジネスモデル」であり、ぶっちゃけて言えば「金(カネ)の問題」です。私には、この問題を解決するキャッシュフローが見えてこないのです。
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