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合理的な行動が待機児童問題を招く? 現代社会を映す負のループ世界を「数字」で回してみよう(50) 働き方改革(9)(2/8 ページ)

今回のテーマは「子育て」、とりわけ、働き方と深く関わってくる、保育園の待機児童問題です。少し前に取り上げた「女性の活躍」と切っても切り離せず、かつ深刻を極めている問題なのですが、政府の対応がうまくいっておらず、また、実は“当事者意識”を持ちにくい問題となっていることが、数字から見えてきました。

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待機児童問題

 こんにちは。江端智一です。

 今回は、政府が主導する「働き方改革」の項目の1つである、「子育て、介護、障害者就労」の中の、「子育て」の"保育所"、"待機児童"の問題に絞って、考えていきたと思います*)

*)当初、「子育て、介護、障害者就労」の全部を、今回の1回分で解説しようと試みたのでが、"保育所"、"待機児童"だけで、ネタが山ほど出てきて、収拾がつかない状況になってしまい、このような形になりました。

 政府が、「働き方改革実行計画」の中の「子育て、介護、障害者就労」の項目で挙げている事項を読んで、私が連載第1回に記載した課題と所感は以下の通りです。

 さて、まず、今回のテーマとなる、"保育所問題"と"待機児童問題"について、簡単に説明します ―― 実際、問題そのものは明快なのです。

 "待機児童"とは、子育て中の保護者が保育所または学童保育施設に入所申請をしていて、かつ、入所条件を満たしているにもかかわらず、定員を越えている為に、入所できない状態にある児童のことをいいます。

 "保育所問題"とは、認可保育所の数に対して入所希望の児童(家庭)が多いために、"待機児童"を発生させている問題を指します。

 当然ですが認可保育所であっても、その保育料は支払わなければなりません(大体、月2〜5万円)。無認可保育園というのもありますが、認可保育所に比べて、倍以上も保育料が高くなることもあります(同約5万〜8万円)。

 労働の報酬の大半が、保育所の支払に持っていかれるということ事態、労働意欲を失わせますが、銭金(ゼニカネ)の問題以前に、保育所の数が足りずに、子どもを預けることができないという事実が存在すること事態が大問題で、異常な状態と言えます*1)、*2)

*1)例えば、「小学校や中学校の数が足りませんので、通学は諦めてください」と言われる状況をイメージしてみてください。
*2)一方、こういう話になると、「国民の労働環境を守るために、育児は100%国家が提供するサービスとすべきである」という論に走る人も多いのですが、一度、「ポルポト」「クメール・ルージュ」「ルーマニア」「チャウチェスク」あたりで検索した記事を読んで見てください。

 この問題を一言で纏めるのであれば、「子どもを作り、育てろ。しかし、働き続けろ」と言われ、「それにはどうしたらいいのか?」と聞き返すと、「それは自分で考えてなんとかしろ」てなことを言われているようなものです。

戦後のベビーブームから、常に存在していた問題

 さて、前述した通り、この問題は、「日本死ね」に端を発したわけではなく、太平洋戦争後のベビーブーム時代から常に発生していました。当然ですが、この問題は保育所の定員を超える状況になれば、必ず発生します

 ところが、(「女性の活用と、国家の緩やかな死」でも述べましたが)この時代においては、「長時間労働、頻繁な転勤を無条件的に受け入れうる労働者」としての「夫」と、「家事、育児、介護などの無償の労働者」とすることを受け入れる「妻」を構成要素とする、「家庭」という「労働力のパーツ化」で対応してきました ―― というか、それで対応できる環境が、当時は「存在していた」のです。

 しかし、今や、「家庭で働く人数(夫と妻) = 収入」であり、「家庭で働かない人数(子ども) = 支出」という、簡単な足し算と引き算だけで成立する環境となり、「労働力のパーツ」は、家庭単位から、個人単位にまで細分化されています

 具体的には、
■「女性が働く社会」……ではなく「女性が働かなければ成立しない社会」
■「どこでも働けるスキル」……ではなく「スキル以前に、都市部以外に求職先がない」
■「家族団らん」……ではなく「スマホで居場所と状況を確認しあう家族」
■「資格があれば将来安泰」……ではなく「資格があっても低賃金、劣悪な労働環境で働かされ続ける」
という現状の社会状況があり、これが、怖いくらい"待機児童問題"にスッポリとはまっているのです。

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