アナリストが語るFPD――市場全体と大型液晶パネル:ディスプレイ業界を望む 2018(2)
ディスプレイ業界を専門とする同社アナリストによる座談会「ディスプレイ業界の現在と未来」の模様をお伝えする本企画。“座談会編”の前編となる本稿は、各アナリスト専門領域について今後の見通しと、大型ディスプレイのビジネス動向に焦点を当てた。
目まぐるしく市場環境が変化するディスプレイ業界。EE Times Japanでは、ディスプレイ業界の現状を振り返り将来を見通すべく、英国の市場調査会社IHS Markitのアナリストにインタビューし、数回にわたってその内容をお届けしている。
今回より、ディスプレイ業界を専門とする同社アナリストによる座談会「ディスプレイ業界の現在と未来」の模様をお伝えする。“座談会編”の前編となる本稿は、各アナリスト専門領域について今後の見通しと、大型ディスプレイのビジネス動向に焦点を当てた。
座談会に参加したアナリストは、次の5人だ。
- 早瀬宏氏(シニアディレクター):中小型ディスプレイを担当。
- 宇野匡氏(上席アナリスト):部材を担当。
- 鳥居寿一氏(エグゼクティブディレクター):テレビ周辺領域を担当。
- 氷室英利氏(ディレクター):パブリックディスプレイ、デジタルサイネージ、デスクトップモニターを担当。
- Charles Annis氏(シニアディレクター):製造技術、製造装置を担当
部材、パネルメーカーで明暗が分かれる
EE Times Japan編集部(以下、EETJ) 自己紹介を兼ね、ご自身の専門領域について市場の動向や今後の見通しをお聞かせください。
早瀬氏 私は中小型ディスプレイのリサーチを担当しているが、この領域ではiPhoneがベンチマークとなる。2017年に発売された「iPhone X」が有機ELディスプレイを採用したことで、スマートフォンで有機ELを採用する動きが加速するかと思われたが、現状は異なり伸び悩みを見せた。スマートフォンの他に、どのようなアプリケーションで有機ELの採用が進みつつあるか。注視したい。
宇野氏 私が担当する部材領域では、偏光板で日系メーカーの強さが目立つ。しかし、価格がこなれてきた部材では日系メーカーの存在感が薄くなった。
テレビ用パネルに視点を移すと、出荷数量は伸び悩みを見せているが面積ベースの需要は拡大の一途を続けている。部材市場の市況は良いとみている。
鳥居氏 テレビは「買い替え」が需要のけん引役で、価格に大きく左右される面がある。2017年は、テレビセットの価格が上昇した影響により中国市場の需要が低下してしまった。中国市場では、55型に代表される大型テレビが既にメジャーな存在だ。4Kも普及が進んでしまった。また、液晶テレビセットでも中国ブランドが強くなりつつある。
有機ELテレビも普及が進みつつあるが、供給元が1社しかない現状では先行きが不透明だ。
氷室氏 パブリックディスプレイ領域では、中国市場の需要伸張が著しい。中国メーカーがこの需要に応える形で、同用途向けパネルの出荷を伸ばしている。
日本・韓国勢のトピックを挙げると、デジタルサイネージ領域でピッチ1mm以下の直視型LEDディスプレイに注目が集まっている。SONYのディスプレイ技術「CLEDIS(クレディス)」もマイクロLEDを活用したデバイスで、表示品質が高い。さまざまな用途への利用が考えられ、面白い存在だ。
デスクトップモニターはニッチな市場であるが、ゲーム用途に向けた製品の需要増がトピックだ。
Annis氏 製造技術、製造装置の観点では、この1年間でさまざまな動きがあった。スマートフォンなどの中小型ディスプレイで、低温ポリシリコン(LTPS)から有機ELへの転換が予測されたほど進まなかった影響により、中国と韓国で立ち上がった有機EL新工場の稼働率が低い状態だ。しかし、FPD(フラットパネルディスプレイ)全体としてみると設備投資は継続のトレンドにあり、中国メーカーを中心として新工場建設が進む。
中国メーカーで第10.5世代工場が生産を開始するなど、急速に大基板化が進行している。この活発な設備投資が続くことによって、大幅な供給過剰へ陥る恐れがあると予想している。
大型ディスプレイ/テレビの動向
EETJ 2018年のテレビセットはどのように見ていますか。
鳥居氏 2018年は液晶パネル価格が下落しているため、セット価格も低下する傾向にある。コスト競争が激化するため、日本・韓国テレビメーカーの収益は厳しいと見ているが、中国メーカーは成長するだろう。
EETJ 大型液晶パネル向けの投資は今後、どのような規模で進むと予想していますか。
Annis氏 LG Displayは、65インチ液晶パネルの値動きを注視しており、彼らは液晶パネル製造設備に関する設備投資計画を中止した。同様のことが中国メーカーにも考えられる。現在の市場状況で、大型液晶パネルへの投資を継続することは非合理的だからだ。
鳥居氏 2018年の薄型テレビ市場は、前年比で約2%しか需要が伸びないと予測しており、液晶テレビに限定するとさらに低い数値となる。1世帯当たりのテレビ台数が現在より大幅に伸びることはないため、液晶パネルの供給過剰状況が今後の需要増加で解決することは考えられない。
前述したテレビセット価格の下落について詳細を述べると、55型以上のより大きなサイズのテレビが価格下落により普及しつつある。65型テレビを例に挙げると、2017年の平均販売価格が1200米ドルであったのに対し、2022年には600米ドル弱になると予測している。この金額は、もはやiPhone以下だ。
Annis氏 中国メーカー以外のパネルメーカーは、大型液晶パネルについて先行きが厳しい市場と結論を下した。この領域について、韓国および、台湾メーカーが今後大きな投資を行うことはないと考える。
IHS Markitは2018年7月26〜27日、ディスプレイ市場セミナー「第35回ディスプレイ産業フォーラム」を東京・品川で開催する。本座談会に登場したアナリスト5人を含む16人のアナリストが登壇し、ディスプレイ産業の最新動向を多角的に解説する。セミナーの詳細情報はこちらから。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 中国勢の台頭と有機ELの行方、ディスプレイ業界の未来
EE Times Japanでは、ディスプレイ業界の現状を振り返り将来を見通すべく、市場調査会社IHS Markitのアナリストにインタビューを行い、複数回にわたってその内容をお届けしている。第1回は、ディスプレイ産業領域を包括的に担当する同社シニアディレクターのDavid Hsieh氏より、大型/中小型液晶と有機ELの現状と未来を聞く。 - 予測不能の有機EL時代の到来 〜 2017年最大の注目点
ディスプレイ産業の今とこれからを読み解く新連載「ディスプレイ総覧2017」。第1回は、2017〜2018年のディスプレイ産業、最大の注目点であるスマートフォン向け有機ELディスプレイ市場の展望を紹介する。 - 有機EL vs TFT液晶 〜 2017年は中小型ディスプレイ市場の転換点
いずれ液晶の地位を奪うと目される有機EL。だが、そうやすやすと世代交代できるだろうか。IHS Markit Technologyのアナリストが、2017年以降の中小型ディスプレイ市場動向について見解を述べる。 - マイクロLED世界市場、2025年には45億ドル超に
矢野経済研究所がマイクロLEDの市場調査結果を発表した。それによると、マイクロLEDはディスプレイを中心に採用が進み、その世界市場規模は2025年には45億8300万米ドルに達するという。 - ソニー、微細LEDの自発光ディスプレイを商品化
ソニーは2016年5月19日、画素ごとに微細なLED素子を配置した自発光ディスプレイを商品化すると発表した。 - ディスプレイ関連市場、2022年に15兆8368億円へ
ディスプレイ関連市場は、高精細TVやスマートフォンなどにおいて、今後は有機ELディスプレイ(OLED)の採用が増え、市場が本格的に拡大する見通しである。