高齢者介護 〜医療の進歩の代償なのか:世界を「数字」で回してみよう(51) 働き方改革(10)(6/10 ページ)
今回から数回にわたり、働き方改革における介護を取り上げます。突然発生し、継続し、解決もせず、被介護者の死をもってのみしか、完了しない高齢者介護。まずは、私自身の体験に基づく、高齢者介護の実態について語ります。
昔は「寝たきり」は存在しなかった
しかし、女性は、出産の準備(初潮)が整わなければ、子どもを作ることはできません。しかし、人間の体の仕組みは、1万年そこらで、簡単に変わるものではありません。それどころか、初潮年齢は、過去にさかのぼるほど上がる傾向があります(参考文献)。
―― こんなに不利な条件下で、どうやって、子孫を残すことができたんだ?
と、かなり悩みました。
これも私の仮説の域を出ませんが、一つには、前述した通り、「平均寿命は、子どもの死亡年齢に引っ張られるので、実際に社会生活を営んでいた成人の寿命は、15歳とか35歳よりも長かった」と考えて良いと思っています。
つまり、7歳まで生き延びることができた人間だけが、カップルとなり、出産と育児を行ったのだろう、と考えました。
しかし、このように短命では、子どもの養育を完了する前に親が死亡する確率は高かったと思います。とすれば、子どもの養育は、共同体で行っていたのか、あるいは、(動物と同様に)歩行ができるようになった段階で、自力で生きること(食事を獲得するなど)が、自然であったのかもしれません。
ちょっと話は逸れましたが、つまるところ、1945年前から縄文時代、石器時代までさかのぼって、「高齢者介護」の概念は存在しなかった ―― そんなエネルギーがあれば、全て、子どもの養育に向けられた ―― と、考えられるのです。
もし、江戸時代に「寝たきり」があったなら?
それでも、縄文時代、江戸時代に「高齢者介護」の"寝たきり"があったとしたら、どのような態様であったかを考えてみました。
現在の、いわゆる、介護年数は、(平均寿命 ― 健康寿命)で概算されています。現在の"寝たきり"の年数は、こちらの統計によれば51.0%が寝たきり期間「3年以上」となっているようです。
ここでは、最悪のケースを考えて、介護年数の平均の全期間を"寝たきり"と考えて、さらに、その"寝たきり"期間は、平均寿命に比例するという仮説を置いてみました。
計算上はこのようになるのですが、介護ベッドなし、空調管理なし、栄養摂取手段なし、衛生管理なしの環境で、これだけの期間を"寝たきり"で生き延びるのは不可能だったと思います。
特に、水分補給が可能であったとしても、経口の食物摂取ができなくなったら(0kcal)、「死」は時間の問題です。
今の私(体重67kg,身長172cm)で、どれくらいの期間で死に至るか、このシミュレーターを使って計算してみたところ、126日目(約4カ月後)に、体重42.9kg(BMI=14)で死に至るという計算結果がでました。
ここから導かれる一つの仮説は、江戸時代以前の"寝たきり"とは、どんなに長くても半年程度であったということです。当時の介護技術で、"寝たきり"を3年とか10年のオーダーで成立させるのは、無理だったはずです。
まとめますと ―― 私たちは、わずかここ75年間の医療の発達で、人類発祥後、未曾有の長寿を手に入れることができましたが、その代償として、「高齢者介護」という、歴史上、人類が一度も体験したことがないミッションに立ち向かわなければならないことになってしまったのです。
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