高齢者介護 〜医療の進歩の代償なのか:世界を「数字」で回してみよう(51) 働き方改革(10)(8/10 ページ)
今回から数回にわたり、働き方改革における介護を取り上げます。突然発生し、継続し、解決もせず、被介護者の死をもってのみしか、完了しない高齢者介護。まずは、私自身の体験に基づく、高齢者介護の実態について語ります。
特許も少ない
ちなみに私、大学の、特に学生の提出してくる、介護関連に関する研究結果に対しては、1mmも信頼しておりません。
一度、研究室の新人が学生の頃にやっていた研究「認知障害のある被介護人の医薬の誤飲を回避するシステム」のプレゼン(発表)を聞いたことがあります。
その時に私が「で、そのシステムは、誰が操作するの? システムを操作できる被介護人であれば、そもそも誤飲をしないし、介護人であればシステムを使う必要はないよね」と質問しただけで、その新人は沈黙してしまいました。
―― ふざけるなぁぁぁ!!!!
と怒鳴りつけるのを抑えるために、私は自分の両手で、机の角を握りしめたのを覚えています。
彼らの研究からは、自分の親が着用している成人用オムツから漂う汚物の異臭がただよってこず、自分の親の肛門から固まった糞を刮ぎ出す、親子の苦痛と屈辱と悲しみが感じられない。
そもそも、「実験データの被験者に同僚の学生を使った」と聞いたときは、その新人に殺意を覚えました(被験者に、被介護人を使わなければ有意なデータとなる訳がありません)。
というわけで、学術系からの調査(論文など)をしたら、その論文の著者の一人一人に殺意を覚えることになると思いましたので、今回はアプローチを換えて、特許庁の特許検索システムで調べることにしました。
まず、特許出願には金がかかりますし、特許発明として登録を得るためには、特許庁の審査官を論破するスキルと時間とコストが必要です。さらに特許権を維持するにもお金がかかります ―― つまり、特許出願と論文では「実用化に対する気合」が違うのです。
ぶっちゃけ、私は、「『金』という明確な目標がない介護装置/サービスなんぞは『モノにならん』」(しょせんは学生のお遊び研究)という「偏見」をタップリと持っています*)。
*)江端に反論したい(あるいは、江端に発言を撤回させて、謝罪させたい)日本の大学の先生と学生は、遠慮なく連絡してきて下さい。私の方からインタビューに参上させて頂き、その結果をこの連載で掲載させて頂きます。
さて、“介護”に関する特許調査結果(概況)は以下の通りとなりました。
正直、がっかりしました。被介護人の日常を理解した上で考え出された発明は、数えるほどしかなく(もっともそれらの発明は素晴らしいもので、私をうならせましたが)、それ以外の発明は、読んでいて腹が立ってきました。
特に、「介護ロボット」については、「介護ロボット」そのものの発明は少なく、「介護ロボットがあったとしたら」という仮定の元に、その評価、操作、GUIの発明(これを周辺発明)ばかりでした。
これらの発明からは、介護問題に対する切迫した状況が見えてこず、かなり私を憤慨させています(特に、病院や施設や姉からの連絡におびえる日々を送っている今の私には)。
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